〈2〉

太陽は既に高く、辺りを日の出の朱色から無色へと照らしている。
耳に入ってくるのは轟々ととめどなく流れ続ける大きな滝の水音。
「………。」
無言でその前に立ち尽くしていたメリーの姿があった。その心に疼くのはどんな念か感情か、全く見当がつかぬ。去り際のセインの言葉も、聞き飽きるぐらいに耳の中で滝と同じく木魂した。
背中ががら空きで無防備な為か、回想に耽っていたのか、肩を叩かれるのに反応が遅れた。
「…!セイ…」
振り返るとメリーは言葉を止める。 そして
「またハルスか…その神出鬼没な現れ方は相変らずだな…。」
するとハルスはまた笑いを浮かべて
「そりゃそうだったかな?明日から気をつけよう。…ククク。」
メリーには一瞬ハルスのベルト右側のハイパーボールが目に入った。
「それは…ログ伍長も同じものを持っていた筈。」
推測するまでもない。ログから奪ったものだ。なのに彼はそれを伏せた。
「いんや?気のせいでは?」
とぼけ口調で済ませた。

「それよりメリーさんよ?四年も経った今でも昔あんたを裏切った男を夢見てるんじゃねぇよな?」
その質問は最初のメリーの咄嗟の言葉による。
「……。」
メリーはその質問に目をそらしたい様子。だがハルスは続ける。
「無駄なことだ。今更ヨリが戻るわけ…」
「お前に言われたくない。」
遮ってメリーは断言した。 すると今度は
「はっは、やれやれだなぁ…。それより今さっきゼウムチーフからお前に伝令が届いたぜ?」
「何?なんと?」
急にいつもの仕事顔へとメリーの表情が変わった。
「ああ、今すぐルネの方へ飛べだと。こんな『流星の滝』で物思いに浸ってる場合じゃないぜ?」
「…分かった、行こう。」
それを最後にハルスを避けるようにその場から離れた。
ハルスは彼女が居なくなるのを見届けて、…本物の悪者のような顔つきと笑みを浮かべ、
「ククク…愚かな女だ。」
そう言ってログから奪ったハイパーボールを放った。
そこで現れるのは炎の化身である火竜のリザードン……のはずだった。
「我が第二の『力』よ…配置につくのだ。」



丁度シィラ達のフエン隊が出陣準備に入っている同刻、
ミナモ側に緊急の報告が入ってくることとなった。
その報とは…モラロ、イスケ達が朝の食事を採っていたときのこと。

* * *

ブゥーン…ブゥーン……
朝の日差しを浴びて虫たちが少しずつ騒ぎ始めて、外の虫が一匹食堂の中に紛れ込んだ。
しばらくてんとう虫のレディバは天井付近を迂回中。そしてやがて下降を始め、一人の男の頭に…

刹那

「…うわぁああああ!?虫だ!?虫だぁあ!?」
叫び声が一気に沈黙を打ち破った。見た所、モラロよりは年が上そう…。
隣にいる一人の女が
「うっさいわね…。」
スプーンを握る手に握力がかかり、…少しだけ形状が歪んだ。
男はまだ頭をバサバサと払い続け、レディバを窓から追い出すのを恐る恐るに見届けると
「…やれやれ、いきなり俺の頭にのりやがって…」
小さく愚痴った。 その時痺れを切らしたように机をバン!と鳴らし、
「カイン!アンタのその虫嫌い、いい加減にしなさいよ!?この期に及んで何べんアンタの金切り声を聞いたと思ってんの!?」
随分とまぁ元気なお嬢さんだこと、いつもは無口なほうなのに。カインと呼ばれた青年はまだ情緒不安定だが、言い返すように
「う、うるせぇ!てめぇだってその二重人格な性格には飽き飽きしてんだよオルビアさんよぉ!?」
あーあ…と横でイスケはため息をつく。一番隅っこに座っているファルツは昨夜の戦闘でのこともあってか、ご機嫌斜めらしい。
朝のレモンティーを持つカップが揺れているのがここから見ても分かる。
そしてカインとオルビアの口喧嘩も日常茶飯事だ。 
と、そこで
「静まらんか!」
と格言のある老人の声が鳴り響いた。 全員一斉にそちらを向く。
リーダーのロル老人であった。今回のホウエン補佐隊の中枢でもある。静まったのを見届けるとロルは手元の書類に目を通し、
「内輪もめをしている場合ではないぞ?今さっきサブリーダーのアダン殿からの伝令が届いた。
フエンの勢力の半分が…目標を変えてこちらに攻めに入ったと言う。」
その言葉にイスケは唖然と、言葉を失った。カインも、オルビアも、そしてファルツも震えが止まった。
ロルリーダーは続ける。
「そこで、ミナモでの任務を少数精鋭に変更する。」
一瞬だけ、見えないようにファルツは自分の手柄とばかりに薄笑みを浮かべた。

ミナモの任務、

それは…海岸に生息する海鯨ホエルオーの追い払い、との事。
最近ミナモ海岸にそれが居住するようになり、魚を食い荒らし始め、漁獲量が半分以下に伸び悩んでいる…という。
その巨体故に、人数を多めに取らなければならないが…少数精鋭…
重い言葉であった。 何よりもキーポイントとなるのが…誰がするのか…だ。 かなりの危険…リスク…それも人命付き…
「任務は、モラロ君に一任することに決定した。」
「なっ!?」
最初に驚きの声を上げたのはファルツだった。何故俺じゃない…?
「ルネの守人」にやらせねぇんだ…? ファルツ…いや…一同もそう思ったろう。
「モラロ君?頼めるね?」
「待ってくださいロルリーダー!何故そいつなんです!?」
ファルツが疑問に思ったことを紛いなしに率直に問うた。
「ファルツ君、君は我々と迎え撃つんだよ?分かるか?」
淡々と、いや少しだけ嘲るようにファルツだけに感じた。
「…君は確か、ダブルスルールに反することをしたのではないのかね?」
ロルは付け足した。そして軽蔑の眼差しで…
「く…」
ファルツは今度こそ何もいえなくなる。 とんだ醜態だ。胸倉に怏々とする感情を脳裏に込めて…
「くそっ!」
部屋を後にした。途中で廊下にゴミ箱を蹴る音がした。

「さて、…モラロ君。分かったね今日の任務?」
イスケはさっきからモラロの言動が全くないことを遺憾に思う。いつもの彼なら今のファルツにケチをつけるはずなのに…と思って隣に座るモラロを見た。 −−−理由は知れた。
「…う〜〜ん…助け…てぇ…」
寝言…らしい。
間抜けにも涎を垂らして…居眠りをしている。カインもオルビアも、イスケでさえも
『大丈夫かな…?』
と、同時に思った。そしてしばらくして
「…うわぁああ!また虫だぁ!!」
またカインが頭のレディバに叫んだ。


眠い目を擦り続けて約一時間、ミナモの太陽は朝の朱色から既に白みを帯び始めてきた。
海風も出始め、波も高まり、今にもモラロを襲わんばかり…
背後から、
「イスケ、そろそろ出陣だそうだ…、出るぞ。」
ファルツであった。伝言を任されたらしい。
「分かりました。ではモラロさん…」
イスケがゆっくりモラロの方を向いて、何かを言おうとするが言葉が見つからないようだ。

「…健闘を…」
最後には言葉になってなかった。けどモラロは
「あぁ…任せとけって。」
未だ、眠気を漂わせているがちゃんと返事できた。ファルツはモラロに目もくれなかった。踵を返すように言うだけ言ったらさっさと持ち場に帰っていく。…嫉妬の念だ。
モラロも同様にファルツが視界に入らないようにしているのが少しだけ分かる。
「眠い」という状態を装っているのか…。
イスケはこの気まずい雰囲気を呑み込み、海の音を背にその場を去った。
波のせせらぎがイスケのモラロに対する不安感を煽っているのか後ろ髪を引かれたような気分だった。

ミナモから少し西に当たる自然に溢れた土地。
この土地は後三十年後にはサファリパークが建設されるのだが、今は警察隊の戦場…バトルフィールドだ。補佐隊を含めて役二十名…それにも関わらず不気味なほどの圧迫感と沈黙を漂わせていた。 イスケは息を呑んだ。
その沈黙をいきなり老人の掛け声で破られた。
「これよりスカイ団勢力との攻防戦に入る!気を締めてかかれ!」
オルビアから聞いた話によるとロルリーダーはかつて軍人の経験もあるらしい。
そして彼の戦友もどこかに生き残っているという。

…なんて事を考えていたら、突然西に聳え立つ山岳から
尋常でない気配を感じた。 すぐさま皆はザッと身構えた。
そしてしばらくの沈黙…嵐の前の静けさと言おうか…?

西山の頂をじっと見つめると…刹那に…空を駆ける物の夥しい影が…
痺れを切らすようにばっと飛び出てきた。
「………来たぞ!!」

* * *

眠気が一気に吹っ飛んだ。生まれて初めて「気負い」と言うものを肌で感じた。
いきなり海岸に現れたそいつの、大きさと迫力、その全てにおいて自分を遥かに上回っている。
「…バケモンだ…。」
呻くしかできなかった。モラロはまだ夢の続きであってほしい無駄な願いを持っているかのように顔をつねって見せた。
…無駄に痛いだけだ、ホエルオーめ…。
目の前のホエルオーはモラロを敵対者と思っているのか、その闘志を相手に勘ぐられたのかわからないけど、力任せに尾をしなやかに屈して海を叩いた。その反動で海の水が顔にかかる。 …少し目が痛い。
モラロの持ち物で唯一あれと対立できるのはただ一体。
…身体は一回り小柄だが、その逞しい肉体と四本の腕、
「…ちっ…つい最近二進化したばっかだが、仕方ねぇ。
…行きなぁ!カイリキー!!」

浅瀬の砂利がとてつもなく痛い。腕を見てみれば貝殻の欠片で何度も切り、血が滲んでいる。
「くそ…が…。」
何度も何度も打ち付けられ、疲労の色が少しずつ見えてきた。
目の前の巨体はてんで疲れを知らない様子なのに。
突然、目を白黒させた。
ホエルオーのしなやかな尾の軌跡がカイリキーへと向かっている!
「カイリキー…カイリキー…!飛べぇえ!!」
絶叫と同時にモラロも跳ぶ。すがり付いてよけようとする。
その時、尾がモラロの背中を捉え…


バシィイイ

「う…あぁ…。」
生まれて初めての悶絶を上げた。鉛のような一撃だ。
一瞬だけ視界に海ではない透明な水滴が跳んでいるのが見えた。
また、浅瀬の砂利に倒れこむ。顔に傷が増える。
「うぅ…。」
背中の激痛を背に、のっくらと芋虫のように起き上がる。
そこで、ホエルオーの眼差しがモラロの目に入った。誇り高い鯨の目、見下すような強さを持つ目。
…モラロは震えた。視界が思いっきり歪むように見えた。
…へっ…俺、泣いてやがる。…だらしねぇ…。
そして今の自分を拒絶するように、
「…冗談じゃねー…負けたか…ねぇ!」
言い聞かせるようにポケットからサッと護身の道具を取り出す。銀色にキラリと光る物。
今度は自らホエルオーに喰らいつこうとした、ナイフ一本で…だが、 

オォオオォオオ…

鼓膜を打ち破るような咆哮にまた動けなくなった。
隣のカイリキーも同様。
「ヒ…」
これで三度目、呻いた回数。脳裏で何故かカウントしていた。

…良かった…シィラがここに居なくて…

自分の「甘さ」が頭の中に吹き込んだのが分かった。そしてハッと我に返った。

…俺は…弱いと…。

「……。」
声は出なかった。

再び見上げると、そこにはホエルオーが一匹居て、止めとばかりに尾を振るい上げて、俺を狙っている。
…けど不思議だ。今度はちゃんと目で追える…?
振りかぶっている所なのに急に落ち着いてきた…?
左のカイリキーを少しだけ蹴っ飛ばして、その反動でモラロも右に少しだけ動く。

バシィ

砂を打った。モラロとカイリキーの間に尾が打ち込まれていた。ふと、右手の中にある物が目に入る。目を細めた。
こんな道具に頼る必要はない。そう思ってナイフを投げ捨てる。

平静だった。彼の心は…





「ピカチュー!まずは『雨乞い』よ!」
オルビアの最初の攻撃パターンから彼女の戦闘が始まった。小さな身体の小さな手を拝むように躍らせ…するとその付近の空だけ
「…あれ?雨?」
別の地点でイスケが訝しげに上を見上げた。すると罵声がした。
「こらイスケ!集中せんか!」
ロル・リーダーであった。しまったと肩を窄める。
雨乞いで降り始めた雨に少しだけ濡れた顔を見上げてみると、50…いや60…だな。おのおのの持つグライガーやエアームドにズバット、中には進化したゴルバット…いやクロバットまでいるでないか。
今日は雲はあっても晴れなのにそれらの影で少しだけ暗い。
隣にいるパートナーのマッスグマとカクレオンが低く呻いたのが耳に入る。
その圧倒されている状態に呑まれたのか、突然
「よぉーし、サーナイトは『電撃波』にピカチュウは『雷』を出して!
この雨を上手く利用するのよ!」
その指示に身を奮い立てて二体から一気に稲光が迸った。雨水を伝って一気に敵陣まで遡った。
「キィイ!?」
たったの一撃で結構落ちてくる。 オルビア特有の戦法。
「やった!」
ところがその戦法をまるで分かってないやつが現れることとなる。それは…
「やれぇバクフーン!一気に『火炎放射』だ!」
カインの指示で赤色の炎を持つそれから炎のラインを一気に敵まで引く。
その熱量ゆえに雨水まで蒸発させてしまった。

「ってこのバカカイン!?何、炎ぶっかけてるのよ?」
「…へ?何で?」
まだオルビアの戦略に気付いてないようだった。 この戦闘中に口論はやめてくれよ…なんてイスケは思った。 そしてオルビアの方を向くと…
あ…! 彼女の背後にゴルバットが一体… 近くのスカイ団員が叫ぶ。

「風おこし!」
「あ…」
すぐ様イスケはそちら側を指差し、
「カクレオン!『バリアー』を!」
防壁を作った。 一体のゴルバットが一瞬怯む。 そこを、
「その隙を狙えフライゴン!『火炎放射』!」
カインが蛇竜に炎を繰り出させた。

「ふぅ…助かった。」
オルビアがホッと胸をなでおろした。
「周りによく気をつけろオルビア!」
カインが仕返しするように忠告する。
しかしオルビア自身はは「あんたに言われたくない」と言わんばかりの表情だった。



二時間経過…スカイ団の勢力は衰えが見え始めたが、それは補佐隊並びに警察隊も同じことが言えた。 膝を付き始めるものもちらほら見えてくる。
「サーナイト!貴方は『テレポート』で一旦逃げて!」
オルビアのいつもの元気な掛け声も今はすっかり細く、弱っている。
それでもカインに心配されたくない!とやせ我慢のように次のボールを探っている。
「ゲンガー!行って!」
けど…



ぐらり
「…あ…れ?」
突如にオルビアの視界で天地が逆さまになった。平衡を保てない…。
受身も取れない。倒れ…

バシッ

「あ!」
倒れたのは雨でぬかるんだ泥の地面ではない。鱗…だ。蛇竜のフライゴンだ。 首をキョロキョロと無理無理に動かしていると、視線の先にカインの姿があった。
「よし!フライゴンはあいつを安全な所に移動してやるんだ!」
口元がそう言っている、声はかなり小さかったけど…。
何やってんの!今は戦闘中よ!? 心で叫んだ。倒れた仲間に何で救助する必要があるのよ? 心で訴えた。けど蛇竜がカインの近くをすれ違ったとき、シャワーズを出しながらこう言った。まるで今一瞬オルビアが思ったことを見透かしたように、

「仲間は守らなくちゃ。」

笑って見せた。 彼の親切な表情がやっと表を見せた。
オルビアは悔しかった。さっきの朝食まで、虫に怯えてたくせに…。
蛇竜に顔をうずめた。とその時、
「今お前が出したゲンガーは責任とって預かるぞ!」
忘れてたようにカインが後ろを振り返って付け足した。
聞こえないように…いや、もう叫んでも聞こえない距離だけど
「…ま、そうさせてもらうわ。」
小さく…本当に小さく会釈をした。

* * *

その一方、

「マッスグマ!突進だ!!」
イスケが指示した。 諸刃の剣とも言える捨て身の技だが、これでグライガーやゴルバット等を十体は倒した。少し…だけどマッスグマも疲れか、動きが大分鈍くなっている。
すれに気付いたイスケはすぐ様、
「お疲れ、今『すごい傷薬』を塗ってあげる。少し休んでて。」
その間しばらくイスケにはカクレオンしか居なくなる。
「バリヤー」や「ミラーコート」は使えるけど、一体では少し危険…状況的に危険を感じた彼は一旦距離をとろうと腰を動かした。周りに気を配りながら…とりあえず茂みを見つけて…
急いで駆けた。大丈夫、カインさんもロルリーダーだっているし…それに、

と、思考を巡らした所で足を止めた。 今向こうに居るはずの戦力。
イスケは思わず疑問の第一声を上げてしまった。 目の前の男に、
「ファルツ…さん?」
しばらく足を止めて、戦闘中であることを忘れていた。イスケは咄嗟に訪ねてみた。
「ファルツさん…、どうしたんです?…休憩ですか?」
今一瞬、自分で出した質問に自分で答えを編み出した。
それはファルツの状態、明らかに服は汚れていない。息すら切らしてない。

つまり、戦闘放棄だ。 ファルツに見られないように頭の皺を寄せた。
それに彼自身も気付いたのか、
「何でもない。そうだ休憩だ。」
イライラしているようにのっくらと立ち上がり、それ以外何も言わずに戦闘の方に向かった。 …逃げるように。
「…………。」
イスケはこの時「ルネの守人」の渾名を疑うようになったのは言うまでもない。

* * *

敵は大分疲れている。そろそろ決着がつく!
モラロは確信した。本物だ!これまで何度も回復薬を用いながらに相手に確実に攻撃を当て続けてきたからだ!
「止めだカイリキー!『クロスチョップ』!!」
カイリキーの四本の腕を弓のようにしなやかに交差させ…気配を殺しホエルオーとの間合いを詰め、貫いた。今のモラロとカイリキーの最大攻撃である。 
だが次の瞬間、我が目を疑った。

「オォオオオオ!!」
吼えたくった!!ホエルオーはまだ立ってやがる。
急にどっと疲れが…モラロはよろめき始めて、自身の確信を呪った。そして右頬に冷たい物が伝った。 本物の水だ?
空を見上げると、晴れていたはずの青空に雨雲が立ち込めている。

* * *

とある民家、とある粗末なテレビの番組で天気予報が入っていた。
画像は乱れていて修理…いや、買い替えが必要である。
「…天気予報です。今日午後、突如の温帯低気圧の北上により
広範囲の乱気流がミナモ全体を囲むように…。」
とそこで民家の主婦が慌しい様子でパタパタとスリッパをパタつかせながら、ベランダに出て行った。
どうやら洗濯物らしい。


風が少しずつ強くなってくるのをひしひしと感じる。ロル・リーダーは空を見上げて…不憫に思った。
年の功というヤツだ。ザラにある老人の天気予報って物だろう。
「少し危険だな…。」

* * *

その又一方、鉄砲玉のように覚束ない足で駆けているスカイ団員が報告にあがった。
状況に危険を察しているのか、焦り口調で
「ツール少尉!我が軍はかなり危険な状態です…増援を!」
ホウエン警察隊の勢力を思いっきり舐めていたようだ。その報告一つで、増援部隊は一瞬のうちに静まりかえった。
「本当か…?」
「おいおい、スカイ団やべぇな…。」
「思った以上だ…」
ざわめきが耳に障る。かつてシィラ達に返り討にされたツール少尉もせっかく上から与えられた機会を無駄にしていると、右腕の握力を悔やむように高めた。 そして
「おいお前ら!耳かっぽじりながらよく聞きな!
今すぐ真東のトクサネに向かうぞ!!」
罵声を上げて部隊のざわめきをねじ込むように抑えた。だが今度はその指令に対する疑問のざわめきに変わった。
「ツール少尉!?なぜ…そのような?」
「…このミナモでの『任務』は手だれの連中に任せることにすらぁ。
今ここでヘタに手助けするよりトクサネの『任務』をこなすが優先さ。
それにこの天候じゃ動けずにこのままでは全滅だ。」
ツールは冷静に、そして淡々としている。
今言ったことを要約するとただ『やられたくない』の下心で動いている理由付けじゃないか。
けど、どよめいたその空間から反論の声をあげる者は居なかった。その士気状態にツールは舌打ちをした。
「チッ…お前ら死人かぁ!?おらぁ!!行くぞ!!」
「は…はいっ!」


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