《6a》

鉄塔は霧のせいか頂上がよく見えない。
ギャラドスの背に運ばれて岸にたどり着くまでの間、靄に隠れた搭を見ようとして危 うく海に転落するところだった。
それにしてもここ最近任務の連続だったせいか、季節の感覚をすっかり失い、今が冬だという事をすっかり忘れてい た。
夜の帳が明けて外に出た時、吹き付けた冬の冷気に背筋が凍った。
メリーの誘いに乗ってキナギから広い海域を渡り、目的とするアジトま では10分とかからない。
数え切れないほど戦闘を超えてきた私にとって、その間1人も敵が現れなかったのは正直言って拍子抜けと言った方が良い。
さ びた鉄塔の入り口には無造作に置かれた数十センチ程の積み石が両側に置かれていて目印になる。

「もしかして、あれですか?」
「アジトの入り口よ。今は見張り人も居ない様ね」

いつもながら自信たっぷりで意気揚々としたメリーの言葉に緊張した。よくよく考えてみ れば敵の根城に攻め入るのは初めてだ。
冷え切った風の中ででる白い息が自分のエクトプラズムのように見えてくる。上ずった鼻声で尋ねた。

「たった2人で制覇しようだなんて、ちょっと無茶苦茶だと思うですけど?」
「そうね、でも昨日の戦いでお縄についた連中を頭数から差し引い て計算してみたんだけど…
もう大分むこうも手詰まりだと思うわ。まだ首謀者は一度も姿を見せてないけど」
「うーん」
「ましてやこちら側の中でまともに動けるのはもう私達だけ。
と来ればシィラちゃん、もう賭けてみましょうよ」

はぁ、と相 槌を打つしかなかったが、実は仕方の無いこととである。

まだポケモンセンターも充分に普及していないこの時代で、それも最寄りの町は他と 比べて極めて歴史が浅いキナギでは
回復には手持ちの薬だけが命綱なのである。つまり負傷した者を癒やすには民宿で眠るしか方法はないのだ。
私 はあの惨劇に遭った夜、銭湯に離れていたため殆どダメージを受けずに済んだのである。運が良いというべきか、悪いというべきか。

だが、結 局賭けは賭け。勝機は100%ではない。岩壁にあけられた洞穴の前に立ち尽くした。今この状況が絶望的なのかそうでないのかはっきりと言えない。
た だ張りつめた空気に押されるばかりなのは確かだ。そんな時、俯いて言葉を失っている私の目の前に手に収まりそうなケースが姿を見せる。

「え?」
「気つけに良いと思って。食べる?」

もう一度そのケースを見た。派手な色をもったプラスチック製の入れ物は大分使 いこまれたのか角の箇所だけ剥げている。
軽くメリーが手を振るとダイス型をした赤色の物体が手に置かれた。私は目を白黒させてしまい、どう答えれ ば良いのか困った。

「あの、これ…ポロックですよね」
「辛い味のものをよく作るけど、私たまにつまみ食いするのよね」
「え…」
「ポケモン専用のお菓子だなんて固定観念よ。騙されたつもりで召し上がれ」
「あ、後で頂き…」

言い終 えるその時、メリーの背後で翼のような影が見えた。コウモリのように尖った羽をしていたが、毒針が口元から発されメリーの背中を狙っている。
逸早 く気づいたミロカロスは水で針を打ち落とした。向かい合ってなかったら私は鉄塔の攻防戦に入る前にメリーを失っていた事になっていた。

「っ!?」
「ヒンバス!」

即座に私は身体を倒れるギリギリ手前まで傾け、ミロカロスの射程を後方の敵に指差すことで向けさ せた。
口元から極度に冷やされた冷気が結集し、やけに高くて不快な音と光線が空間を走り、モロに喰らったクロバットはなんとか一撃で眠ってくれ た。
この場の冷えた空気がビームの力を倍増させてくれたんだと思う。辺りにクロバットの使い魔でも居るのではないかと目を配ったが、居なかった。

「ふふふ…助かったわ、ありがとう」
「冷や冷やしましたよ。でも無事でよかった」

そうね、とメリーは過呼吸交じりに答え る。
ビームを放ったミロカロスは、まだ周辺に目を配っている。クロバットの使い手がスカイ団の一味だとしたら、今頃首謀者の所へ報告に戻ったのか もしれない。
2人で敵の根城を落とすのならどっちみち戦闘は避けられないものとなるが…やはり1人ずつ確実に倒してくのが良いペースだ。
ミ ロカロスは洞窟の壁を這いながら登ろうとする。綺麗めな姿をしているがこの辺りはやっぱり水蛇だと私は思った。もう見慣れたが。

「も しかしてあの子、今の奴の使い手を探しているのかな?」
「ええと…多分そうかと」
「だとしたら無駄ね。使い手が居るんだったら ギャラドスがとっくに気づいてるはずよ。もっと上の所に潜んでいると思うわ」

水の竜は淵で低く唸りながら辺りを見ている。今にも暴れ出し そうな雰囲気を全身で出しているギャラドスは
これ以上とないガードマンという風格だった。

「ヒンバス!この辺りには居ない よ。洞から中に入ろう」 

主人の言葉に反応したミロカロスは尖った鼻先で軽く頷き、2人の居る地面に降り立った。
この時メリー は、既に進化体系をしたヒンバスに対しても私が『ヒンバス』と呼んでいるのは何故かと疑問に思っていたが、
流石に人の事をそこまで詮索する気はな かった。それにしてもあの魚からこんなに化けるとは…。

「では他の者に気取られる前に行きましょう」
「はい」
「あら?ポロック食べないの?」
「食べなくたって目覚ましにはなりましたよ」


日の光も届かない洞窟の中に2人は足 を踏み入れた。しんと静まり返った洞窟は2人分の足音しか反響してこない。
私はすぐにキノガッサをボールから明け、松明役として道を照らすよう命 じたが、メリーは―― あら、平気よ と言うだけだった。

敵が全く姿を見せないこの様子からして、どうやら彼女の言葉はやっぱり本当だっ た。
―― もうスカイ団はアジトを護る余裕が無いくらいに破滅寸前なんだ…。
そんな思考を巡らしていると、前を歩くメリーが歩みを止め る。ぼんやりしてたためか背中にまで届く彼女の金髪に顔をぶつけた。
隣を歩くキノガッサが胞子を撒き散らし、松明代わりのフラッシュが一瞬揺らめ く。顕わにあった石の影が踊った。

「ここで道が分かれるのよ」
「えっ?」

フラッシュで照らした道が二つ に分かれて目の前に広がった。片一方の道は上へ続く坂道となり、もう一方は地下へ続いている。
どちらもまた狭く、低い天井は直下型地震でも起これ ば一瞬にして崩れ落ちそうなぐらい脆い雰囲気を与える。
道のサイドにはアジトの入り口と同じく適当な高さに積み石がされている。この分岐点でメ リーはしばらく考え込んでいた。

どうしたんですか、と声をかけても「少し待って」と答えるだけで会話が続きそうにもない。
と、そ の時メリーの華奢な身体が翻り、口を割った。彼女が考え込むところを見たのはこれが最初で最後なのかもしれない。

「決めたわ、二手に 分かれましょう」
「ええっ!?」

私の驚いた声はさっきのものよりも甲高い声で一回り大きかった。メリーがしかめっ面でしー、 と口元に指を立てたが。
その次にメリーは片膝をついて私と目線を合わせてくる。目線を合わせて話すのは確かずっと前に屋上で彼女と初めて会った時 以来だった。
こういう時はいつも大切な話と相場が決まっているらしい。聞こえないように生唾を飲みほした。

「シィラちゃんは 地下へ、私は上に行って奴らの兵力を削いでくる。その方が効率が良いからね
地下通路はスカイ団が創設されてすぐに造られた人工の通路だけ ど、その一番先には会議に使う談話室があるのよ。
そこには鉄搭の頂上へ続く扉のロックを解除する仕掛けが2,3箇所あるから。見つけ次第解 除しちゃって」
「鍵開け…ですね?」
「途中にいくつも部屋があるけど、空になった地下牢だから気にしないで。談話室まで一本道だ からすんなり行けるはずよ」
「はい」

もうそう答えるしか選択肢はなかった。二の句というやつは浮かんできてくれない。
黒 い色をした小型の機械がメリーの手から渡される。隣にたたずむキノガッサは興味津津に機械に鼻を近づけて匂いを覚えようと鼻を震えさせている。

「いざという時の為の通信機。周波を合わせてあるから弄らないでね」

手に取った装置をまじまじと眺めようとするが、さっさとメリーが動 きだしてしまったので観察する暇がなかった。
上への道は右へと曲がりくねり、微かにだが地上の光が反射している。靴音を立てて登って迂回した道に 身を隠そうとする直前で私は呼びとめた。

「メリーさん」
「うん?」

癖のない金髪は彼女の捻った上半身に 反動して綺麗に揺れる。名を呼ばれて振り向いたときの表情に息をのんだ。
いつも通りの優しそうな顔だが、その裏側には覚悟を決めたような心が含ま れていた。 
最初私はこの分岐点で二手に分かれる目的だけで私を連れてきたんだろうと予想していたが、その思考は迷いのない笑顔によって打ち消さ れた。
間をおいて、口に出そうと台詞をすぐに変更した。

「どうかお気をつけて」

電灯を持たない彼女はとても 曖昧なシルエットをしていたが
―― ええ、任せて という受け答えはとても柔らかで、ニッコリと笑顔な顔なのだと見なくても分かった。
姿 が完全に見えなくなり、足音も聞こえなくなるまで待ってからすぐに私も地下の方への道を踏み出す。
若干14年という短い人生の中で暗闇を1人で歩 いたのは、おそらく私が最多記録なのだろう。家族や数少ない友達とお喋りしたり、笑いあったり…
当たり前のようにあった日常から一転すると、途端 に元の状態が恋しくなるのが性(さが)なのだろうか。
今となっては疑問に思えるぐらい何も感じなくなっている。麻痺している―― と言った方が正 しいのかもしれない。

「行くわよ、キノガッサ」

主人の張りつめた声に何ら違和感を覚えず、キノコポケモンは陽気なア ヒルの鳴き声で返事した。





坂道を歩きだしてすぐに外の冷気が吹き付けた。入った時よりかは空が白んで きているが、夜明けというにはまだまだ早い。
靄も大分晴れてきたのはすぐに分かった。洞穴を背にメリーは周辺を見渡す。乾ききった砂地には低い草 が少し生えているだけで
後はごつごつした岩と石が海の上に浮かんで立ち並んでて、後方左手には無駄に高い摩天楼が建っている。まさに無味乾燥とし た味気のない場所だ。

時化た海の遥か彼方にはつい一昨日までは街であったキナギが、今じゃほぼ廃墟となってぽっかり浮かんでいる。
今 頃、地方から遠征してきたシィラちゃんの仲間達が今後の事を計っているのだろう。それにしても…

メリーが摩天楼を前にして左右を見渡す。 スカイ団の連中は大半は叩いたといえどもまだ残存者はいるはずなのに、入り口で襲ってきたクロバット以外は
一向に気配を見せようとしない。逃げて くれたのならそれなりに在り難いのだが。

―― 取りあえずは、搭に入ってみなきゃ始らないか。

唯一つしかない摩天楼の鉄 扉に目をやる。いくつもの鎖が取り巻き、行く手を遮る。彼女が団に在席していた頃にはこんな物はなかった。
立ち入り禁止を示す鎖に錠前がされて あって、吹き付ける風がやけに寒そうだったのか、思わず苦笑した。

「バリケードのつもりかしら?…ギャラドス!」

ボー ルから現れると同時に高い雄叫びをあげる。相当鬱憤が溜まっているのだろうが、丸一日ボールに入れっぱなしにした程度である。
気性が荒く、攻撃的 なポケモンほどボールという束縛を極端に嫌う。だから勝手に出て主人の元から逃げ出さぬよう、適当な具合で
外に出してやるのがこの時代の常識だっ た。

「扉を破れ!」

竜は集めだした水を尻尾に集中させ、鎧のように固めるとそれを鉄扉目掛けて素早く鞭のように振る う。
鍵と鎖は錆びた壁諸共、アクアテールで呆気なく吹き飛ばされ、大穴が開いた。
粉々になったセメントは粉塵になってパラパラと落ち、蒸 気が立ち込める。

―― 目指すは頂上ね。そこにいる碧竜を何とかしないと。

ギャラドスを収め、手の中にボールを握りなが らメリーは走り出した。

この塔は外から見た限りでは要塞のようだが、内部は一階から頂上辺りまで吹き抜けになっている。
万が一奇 襲を受けた際、鳥系・竜系のポケモンが逸早く侵入者の下へ飛んで駆け付けられるよう、吹き抜け構造にしたという。
しかし、その防衛システムも敵兵 を失って誰もいなくなった今、何の役にも立たないホールとなった。

とかく、誰も出てこないのならこのまま階段で頂上まで行けばいい。しか しその油断はすぐに消えた。

―― 誰か来る…

吹き抜けの下の方から鳥の羽ばたく音がかすかに聞こえてくる。塔は全くの無 人、という訳ではなかった。息を殺して待っていたのだろう。
収めたギャラドスのボールを再び放ち、いつでも出せるように構えた。ゆっくりしたリズ ムと空気を打つ大きな音からしてきっと大鳥だ…。
逃げ出す残り団員かもしれない、いつもの戦闘ならここで姿を垣間見た瞬間を狙って攻撃するのだと 教わったのだが、今日はその掟を守る気はなかった。
1階吹き抜けの空中に黒い鳥が顔を見せ、呆気にとられる前に黒い鳥はメリーのすぐ横の地面に降 り立ち、逆立った羽を整える。

背丈は見上げるまでに高く、肩幅の広い男性が黒い鳥の上に跨っていた。
落ち着きと貫録を兼ね備えた 男はメリーを見据えると、半ば呆れた様子でため息混じりに重い口を開く。

「今頃戻ってきたのか?反逆者メリー部隊長。相変わらず噂 の絶えない女だな」
「ギスト!」

久しぶりに見た同志の顔にほっと胸をなでおろした。
メリー自身は団員としてちゃんと 活動していた期間はあまりなかったが、一度見た顔は忘れない、というのが彼女の主義であり、特技でもあった。
だがギスト程の特徴の強い顔はそれを 使うまでもなかった。貫録のある30代前半の彼の容姿は人の目を引く。

「まぁ、無事でなによりだ」

口数こそ少なく、 言葉も短いものが多いがそれでも人望は厚い。
奥行きのあるメリーの眼はこの時ばかり意地悪そうに細まり、軽く顎を立てて腕を組んだ。

「『無事で』?――」

ギストは彼女が突然とった態度に、今から何を説教たれるのかを悟ったのか申し訳なさそうに片手で顔と目頭を覆う。
主 人の異変を目の当たりにしたドンカラスが、不思議そうに嘴で軽く背中をつついた。

「私がここを抜ける前の日、私が貴方に言った言葉… 忘れたというの?」

予想通りの言葉だった。

「…忘れてはいないさ。やっぱりお前が正しかった。スカイ団はとうの昔か ら狂いだしていた。
逸早く気づいたのはお前だったな。だが進言してきたお前の言葉に俺は耳を傾けようとしなかった…それか?」
「正解」
「すまない」

ギストはため息をつきながらドンカラスの羽毛を逆撫でした。  
メリーは『してやった!』とい わんばかりの腹黒い笑顔でギャラドスを収める。―― 無駄足させちゃってごめんね と、ボール越しに言った。

「で…教えてくれる?こ のスカイ団の事。一体どうなっちゃったの?」
「見ての通りだ。団員はほぼ全員検挙されて壊滅。
生き残った者もハルスとゼウム様 のやろうとしている事に不信感を抱き、散り散りに逃げていった」
「そう…」

2人はしばらく無言で廃墟となった鉄塔と虚無の空 間となった吹き抜けをぼんやりと眺めていた。
殆ど日光の届かない場所で過ごしていると時間の感覚を本当に失う。
団に居た頃は今から数日前 なのか、あるいは何十年も昔の事にさえも思えてならない。
そんな憂愁にとざされていたのを不意打ちでもするように『そいつ』はきた。遥か上方から 雄叫びが轟き、地響きに身体のバランスを失う。

「っ!?」
「ハルスだ。頂上で碧竜レックウザを目覚めさせようとしてい る」
「もうこんな早く?だとしたら――」

いつもの凛としたメリーに戻り、階層から屋上への階段を睨んだ。すぐにでも駆け出さ んと脚の体重移動を始めていた。 

「どうする気だ?お前、まさかたった一人で止める気なのか?」
「それ以外に何があるっ ていうの?」

ギストはまた目頭を押さえた。ここで告げてやる方が良いのか、黙っている方が彼女に気負いも持たせずに済むのか迷った。
今 までここに攫われてきた力のあるポケモン達は地下牢に押し込められ、碧竜の眠りを覚まさせる目的の為に無残に殺され、
個々の力を抽出されていた。 そしてその無数の屍はこの鉄塔の下の海域で眠り続けている。
―― いずれ、数年もしないうちに彼らの恨みが怨霊のポケモンと化してこの鉄塔に棲み つくかもしれない。

「どうしたの?」
「すまない、今の俺はもう戦力外だ。助けには、なれそうにない」

そ の残虐な狩りが行われたのは丁度メリーが抜けてすぐ後だったから彼女はこの事を全く知らないのだ。
ここは黙っておいた方がよいと、ギストは踏ん だ。メリーはしばらく手を口元に抑えて何か考える素振りを見せた後、

「そう、無理強いはしないけど…行く前に一つだけ、貴方の言葉を 訂正してあげようか?」
「え?」
「生き残った部下達は『逃げた』じゃなくて、『貴方が逃がした』のでしょう?
私達 と同じ様な考えを持っていた人達は皆ハルスの脅迫で嫌々従っていたんだから。
それを逃がせる私以外の上司なんて、貴方しかできない」

奥 行きのある彼女の目は確実に心を捉えていた。

「…メリー」
「責任を追う事は何一つないわ。私達が従っていたのは最初から ゼウム様だけだからね」

メリーはそう言って階層のフロアを後にした。呼応するかのような碧竜の地響きがもう一度響いた。
相棒のド ンカラスは数秒間沈黙を保っていたが、突然痺れを切らしたように大きな背中に頭をぶつけた。鳥系のポケモンの典型的なアピールである。

「どうした?」

相棒に問いかけるが、聞くまでもなかった。
闇の石を与えて以来、ずっと八の字に垂れていた目は今は怒ったように 逆向きになっている。
そして必死に羽毛を舞わせながら翼をバタつかせて何かを主張している。

「下に誰かいるのか!?」

自 慢の青い帽子とともに頭(こうべ)を垂れ、お辞儀でYesと答える。

「すぐに行こう」

ドンカラスのとても大きな羽毛 の背中にやや大柄のギストの身体を委ねるのは充分すぎる大きさだった。
誰もいない塔の中で相棒の鳥は一度だけ鳴いた。鳥にしては低く、野太く吹き 抜けの中で木霊するが、不思議と印象に残る鳴き声だ。
その筒のような狭い空間を滑空し、地下へとギストは降りていく。


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