《第一部 第序章 第三話『オニツカ リンドウ』》

「あッ、じゃあトレーナーカード見せてもらえますか?」
首と屍骸の入った袋を渡した後、カウンター内の女が言う。
「ああ」

私は言われた通り、そして何時も通りにポケモントレーナーとしての身分証である長方形の金色をしたカード――『トレーナーカード』――を提示した。
この『トレーナーカード』、年齢が一〇になれば全国のポケモンセンターで五〇〇円支払い、簡単な性格検査を受ければ発行されるものと、協会指定の試験を合 格することで発行されるものがとがある。前者を持つトレーナーをアマチュア、後者を持っているトレーナーをプロと呼ぶ。プロとアマチュアの最大の違いは大 会での賞金だろうか。アマチュアが優勝しても賞金は一切でない。コンテストはこの限りではないが。
機能としては、最大 九九万九九九九円までチャージ可能な電子マネーが最も使用されているか。
女は提示したカードを見ながら、

「えと、プロトレーナーの……オニツカ  リンドウさん、でよろしいですか?」
「ああ」
わかりました、と返事をしながら引き出しから一枚の紙を出す。様々な使用をされる協会公認の用紙、『レポート』を。
ペンを握った女は、用紙に書く必要事項を聞いてくる。

「仕事内容と終了時間は?」
「害獣駆除、一七三二時終了」
「……ッ駆除……はい、わかりました」
その声が震えているのは気のせいか。
「対象の数と種、使用ポケモンと武器をお願いします」
「リングマ、ピジョット、ピカチュウの三匹。ブースターとバンギラスを使用。武器は四四口径の回転式拳銃」
「拳銃使用の許可は取ってますか?」
「ああ」
当たり前だ。許可なしでの使用が発覚したならば、警察の厄介にならなければならなくなる。……発覚しなければ別に構わないが。
「そうですか。ではこれを協会にFAXしていただければ終了です」
そう言って私にレポートを渡す。

「感謝する」
受け取った私が、パソコンの列の隣に並んでいるFAX付きのテレビ電話へ向かおうとすると、
「あのッ、一つ聞いてもいいですか?」
カウンター内の女がなにやら真剣な表情で言ってきた。
「なんだ」
特に急ぐ理由も無い。
「あの仔たちは何をしたっていうんですか?」
……害獣のことだろうか。
「何故そんなことが知りたい」
「いくらなんでも殺したりするはあんまりだと思ったからです」

ふむ。優しい奴なのだな。……まぁそれが良いことなのか悪いことなのかは別として。

「判明しているのは、五名殺害、一般人を含めた重軽傷者多数。その手持ちポケモンはボールごと喰い殺されている。……というか、協会がテレビやラジオで警戒を呼び掛けていると思うのだが」
「……メディアでは凶暴なポケモンがでるので注意するように、としか言っていません」
女が少し青ざめた顔で小さく言う。
……ふむ、そうなのか。テレビやラジオを見ないし聞かないからな、私は。依頼時に聞いた限りなので、協会に詳しく聞いてみるか。
そして、

「あなたは今までに殺める時に、少しでも躊躇したことはありますか?」
女の語調が少し荒くなる。
……質問は一つではないのか。まぁ良いが。
「ない。殺さなければ私が殺されている」
いや、最初はあった。しかしそれで何度も死に掛けた。そうすればあいつらの負担になる。だからその感情は捨てた。今はもう何処に捨てたのか分からないし、拾い直そうとしても遅すぎる。
女は息を深く吐き、私に宣言した。
「そうですか。私はあなたの考え方を理解できないですし、したくもありません」
話が迷走している気がする。この女は何が言いたいのだ。
「別にされなくても良い」
――むしろ理解しない方が良い。その方が所謂世間一般で言うところの幸せ、だ。
私はカウンターに背を向けテレビ電話へと向かう。
 


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