《第一部 第序章 第七話『戦闘場』》

「出てこい。ルシア」

私が放つ言葉と同時、ボールから硬質な鎧のような膚を纏った二M程の巨体、ルシアが現れる。心なしか、その瞳には緊張の色が見える気がする。
私は、足下に付いてきていたフレアにルシアの隣へ行くよう言う。
そして、
「食べてしまったのは仕方ない」
こう言った瞬間二匹の緊張が明らかに緩んだのを表情に見る。
しかし、此で終わりではない。
二匹に向かい、こう続ける。
「なので食べた分、何時もの戦闘訓練に上乗せだ」

二匹の顔から先程の緩みが消える。しかし、此処に来た時程緊張しているわけではないようだ。
今私達が居るのは、ポケモンセンターに隣接したバトル場と呼ばれる、全天候性の建物。そこにあるテニスコート二面程の土の敷かれたバトルフィールド。その上。
この町ソノオタウンは、街と言える程大きくない。
そのため、このバトル場も街のバトル場と比べ――例えば私の住む街、コトブキシティのバトル場は野球場並みの広さ。――狭い。
しかし今は○八一三時。私達以外の影は無い。
一匹ずつでも良いが、二匹まとめてやれば時間の短縮になる。
しかしこの二匹だけでは良くない。
ルシアは主に大型の、フレアは小、中型のポケモンとの戦いがメインだ。
まぁ戦えない、というわけではないが、訓練と言えない程に長くなってしまうだろう。
あのように言ったが今日はどちらかと言うとクールダウンの意味合いが強い。
更に、……流石に今日中に帰らねば。
出来るなら夕飯までに。
カスミモリが夕飯の担当だった場合、ひたすら菓子類を食べるはめになる。それは回避しなければならない。
しかし訓練を止めるつもりも無い。
なので、
「メテオ、アスタルテ。出てこい」
腰に付けたボールから閃光が走り、二つの影を作り出す。
一方は薄墨色をした体で、二つの手が宙に浮かんでいる――アスタルテ。
もう一方は、柑子色の巨体。背に翼。そして太くしなやかな尾を持つ、竜型のポケモン――カイリューのメテオ。
中型と大型の二匹。
必要な者が揃ったので、今日の訓練の内容を全員に説明することにする。

「ダブルバトルだ。メテオとアスタルテは私が指示する。ルシアとフレアは個々の判断で動け。貴様らは私を攻撃して構わん」
これは『ポケモンバトル』というよりも野生のポケモンの『捕獲』に近いか。
ルールのあるバトルよりもトレーナーへの攻撃もありうる為、ある意味危険が増す。
極稀に、そういった依頼もある。こういった依頼はルオウが担当で、私が捕獲をすることはあまりないが、それでも皆無ということはない。
戦闘不能にしても、止めを刺さない『捕獲』というものは苦手だが、偶には練習しておかないと実際にしなければならなくなった時に困るだろう。
全員が頷くのを確認し、私を含めた五つの影はバトルフィールドの中央へ移動する。

「一時間が経過した時点で終了する。各自、本気でやるように」

言いながら、コートに入れっぱなしだったポケギアを操作し、一時間後にアラームが鳴るように設定する。
そして、

「それでは、開始する」


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