《第一部 第序章 第一〇話『戦闘中第一戦目〜属性〜』》


「あははッ。かわいい仔だねぇ」

私の腰の黒球から閃光を纏い現れた、薄い水色の体にしなやかな魚の様な尾を持つ四足歩行のポケモン――シャワーズのレイン――を見て男、サトルは言う。どういうわけか笑顔で。
何が面白いのだろうか、と思うが、男の手が腰に有る上部が赤、下部が白の球体――モンスターボール――に掛かるのを視認した為、戦闘に不要な情報、思考、感情を頭の中から排斥する。
「『みず』、にはコイツだな。GO! レアコイル!」
男は右手に掴んだモンスターボールを放り投げ、ボールは放物線を描きながら地に落ちる。
その衝撃によりボールのロック(中のポケモンが勝手に外に出ないようにする為のもの。最近の大量生産のボールには付けられている。私のボールは古い為付い ていないが。)が解除され閃光と伴に、『灰色の鉄球を三つ三角形に並べ、鉄球一つにつきU型磁石を2つ側面に、ネジを一つ頂点に、そして中心に一つ瞳、合 計三つの視線を持つ』無生物型のポケモン――レアコイル――が姿を現す。
招喚を見届けた男が大声で話しかけてくる。
「普通は同時に出さない? 出すの早すぎるよ」
流石に距離がある為私も少し大きな声で返す。
「別段変わらんだろう」
「あれ? タイプ相性とか気にしない人?」

私が無言で返すと男は「まぁ、いいか」と呟き、
「それじゃあ、これが地面に着いたときがバトルスタートってことで」
右手の人差し指と中指の二本の指に挟んだ五〇〇円玉程の大きさのコインを此方に見せ、言い、私の返事を待たず上へと放り投げる。
コインは照明の光を受け薄く輝きながら高い天井に向かい昇り、やがて地に向かい落ちる。
地に着く前に私はコートのポケットの中に入っていたミネラルウォーターの缶(お得用の五〇〇ミリリットル。)を開け、着いた瞬間、男が「でんげきは! (電撃波)」と叫ぶのを聞きながら足元のレインに中身を掛ける。
男の指示の下、レアコイルの持つ気が、雷と導体へと性質を変化させ、地を這う電撃の槍と成って真っ直ぐとレインへと向かい放たれる。
対象に対する道が作られている為、その雷槍を避ける手段は無い。
閃光が視界を灼く。
「効果抜群ッて感じかなぁ」
閃光の中、男が笑う。勝利は自分だと。
「弾丸生成。『非致死』『通常弾』……制圧開始」
言下。
レアコイルの鋼の体が轟音と伴に歪む。
「はあッ?!」
男の思考が回復するまでの間一つ二つ三つと、轟音と歪みは増え、
「ッ! でんじほうッ!! (電磁砲)」

回復し指示を出した頃には既に遅く、宙に浮かんでいたレアコイルは地に沈む。
残るのは、無色透明な水の帯を体の周りに三本纏わせた水色のケモノ――レイン――。
その身は雷撃を受けたにしては傷一つ、火傷一つ無い。
茫然とした男が口を開く。
「……なんで……『でんき』タイプは『みず』タイプに効果抜群だろッ!?」
――ポケモンは『タイプ』と呼ばれる属性を最低一つ、最大で二つ持つ。そして『炎が草を燃やす』ように『タイプ』毎には弱点となる『タイプ』が存在する。
現在、『無(ノーマル)・闘(かくとう)・毒(どく)・地(じめん)・飛(ひこう)・虫(むし)・岩(いわ)・霊(ゴースト)・鋼(はがね)・竜(ドラゴ ン)・悪(あく)・炎(ほのお)・水(みず)・雷(でんき)・草(くさ)・氷(こおり)・念(エスパー)』の一七種類に分類されるこれらには、ポケモン本 体の他にポケモンが発現させる現象『わざ』にも付加される。
ポケモンの持つタイプは、『進化』と呼ばれる形態変化や特殊な例外を除き変わる事は 無い。しかし『わざ』に使用する『気』は、基本的に『自分のタイプ』であるが、タイプを変化させる事が出来、それにより様々なタイプのわざを使用する事を 可能としている。(この為、自分のタイプと一致するわざの使用はタイプ変化をしなくて良い為威力が高くなる。)――

「……『わざ』の分類は知っているな」
プロになるにはペーパーテストの突破が絶対条件であるし、この程度ならば年少のアマチュアでも答えられる……はず。
「物理、特殊、変化の三種だろッ? それが何か関係あるのかよッ?!」
男の口調が若干変わってきた気がする。が、私には関係無いか。
「では、その三種以外での分類は」
「……身体強化、性質変化、物質具現、とかいうマイナーなやつ?」
「そうだ」
男は少し眉根を寄せ考える素振りを見せながら言う。伊達にプロテストに合格しているわけではないな。
――『わざ』を攻撃と防御の二つに分類し、更に攻撃は物理・特殊、防御は変化と呼ぶ。
この表現が最も有名だが、違う角度での表現も存在する。
『わざ』を『身体強化・性質変化・物質具現・限定操作・指向放出』の五つに分類するのがそれで、前者がまず攻撃と防御に分けるのに対し、後者は全ての『わざ』を五つの分類の組み合わせで表現する。
例を挙げるならば、先程の戦闘で男のレアコイルが放った『でんげきは(電撃波)』は気を『雷に性質を変化』させ、次いで違う気を『導体に変化』。生み出し た導体を『指向性を持たせレインに向かい放出』し、その導体の道をなぞる様に雷が地を走り標的に撃ち込むわざ。導体の道は『操作』されどんなに動こうと も、標的を追う。
因みにレインが使ったわざ、『みずでっぽう(水鉄砲)』は『液体を操作或いは具現化』し、それを『対象に向かい指向性を持たせ放出』する。――

「でも、それが何?」
「『みず』タイプのわざには『物質具現』を利用したものが大半だが、それは『限定操作』が文字通り限定的な操作しか出来ないからだ。そしてこのレインは物質具現が全く出来なくてな。その代わりに限定操作の力が異常なほど高い。」
「だからそれが何なんだよッ!」
男が吼える。
私は軽く息を吐き、男に言う。
「『みず』タイプは電気に弱いが『純水』は絶縁体だ」
「……へ?…………あッ」

どうやら理解してくれたらしい。男の口がマルノームの様に大きく開かれ、目はレアコイルの様に大きく丸くなる。
――レインが実行したのは『限定操作』による液体(この場合は水)の操作。
空気中の水分を操作し不純物を除いた水を輪状にし体の周辺に生成する。(缶入りミネラルウォーターを開けたのは生成を早くする為だ。)
アクアリングと呼ばれるこのわざは、通常直接防御ではなく体力の回復を目的とする間接防御の一つ。――

「それでも、……いくら何でも無傷はありえないだろ」
男が呟くのが聞こえる。
「力量(レベル)差が大きければそれ程食らわんぞ」
私が言うと男が顔を赤くして叫び返して来た。


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