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エアたちは走っている列車の扉を開き、そこからなるべく柔らかそうな草地に差し掛かるのを見計らって気絶しているヘルガーの体 を放り出した。手荒でともすれば死ぬまではいかずとも、大怪我を負わせてしまうような真似であったが、ヘルガーを人間の手にかかる前に放すにはこの方法し かなかった。
もし人間の手にとらわれるようなことになれば、どのようなことをされるか分からない。その場で殺されるならまだ良いにしても、ラコンが人間にとって恐怖と憎悪の対象となりつつあるこの時世では、あるいはもっと酷い責め苦を負わせられながら殺されることもありえるだろう。
ただ、果たしてこのまま正気に戻ってくれて元の生活に戻ってくれるのかは、彼らには分からなかった。だから今やったことも本当に正しいことであったのか分かりかねる部分があった。

――人間の手にかかって責め殺されるよりははるかに……

今はそう言い聞かせるしかなかった。

「アリア。シェイドの腕は……大丈夫なのかな?」

気が落ち着いてくると、彼はまずヘルガーに噛まれたシェイドの腕のことが気になった。
シェイドは自分のことを言われていることに気づいたようで、アリアに何事かをボソボソと伝えるとフードに隠れてよく見えなかったがニコリと笑顔を見せたように見えた。

「シェイドが『心配してくれてありがとう』だって。シェイドなら大丈夫、この程度の怪我なら以前にも負ったことがあるし、それにラコンの治癒力は人間の比じゃないしね」

アリアが笑い混じりに言う。

「まあ、それでも戻ったら少し治療しないとね」

エアはまだヘルガーのことを気がかりに思ったが、なんとかそれを振り払おうと、頭をブンブンと振った。

「どうやら、そちらも終わったようですね」

そう言ってその場に顔を覗かせたのはルアだった。左肩にはやはりクレフも乗っている。クレフはなにか煩わしい仕事をこなした後のように、座るような乗り方 となっている。それでも持ち前の鋭い眼光は決して崩すことなくギラリと光らせていた。よくみると尻尾の羽根が少しばかり黒ずんでいた。

ルアによると、彼はクレフを使ってギャロップの気を引かせ、途中にあった河に落としたらしい。その際ギャロップが炎を放ってきてそれによってクレフの尻尾 が少しばかり焦げてしまったとのことだった。だが焼けたのは羽根だけで体には直接燃え移ってないので放って置けばまた元通りに生え変わるだろう。
そして列車は乗客の一人が死ぬという結果を残しながらも、定刻どおりにゴルドバの駅へと到着した。
 


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