声無き相棒 ――No.1


深き森の暗闇を睨むのは、黒く光る鋭い双眸。
淡く蒼い月明かりが照らすのは、黄金の毛並み。
実体を持たない相手の動きさえも敏感に感じ取る、小さい羽のような耳。
まともな状態ではありえないほど鋭敏になった五感が、目の前の敵を捕らえて逃がさない。
先端が雷マーク型の長い尻尾を自らの後方へ垂らし、いつでも飛びかかれる体勢で獲物を睨み付けた。

「好きにしていいぞー」

この場に不釣合いな、緊迫感のない声に小さな吐息で応じ、彼女は駆け出した。
闇に紛れ、森に迷い込んだ者を食らうと言われていた魔物は、今ここで退治されることが決定したのだ。

影に溶けて逃げ出そうとするソレの動きを、全身から放つ電磁波で封じる。
直後、高電圧の雷撃がソレに伝わり、狩りは一撃の下に幕を下ろした。

目をバッテンにしてノビた黒い塊――ゲンガー――をよそに、彼女は特等席――友の頭の上――に戻った。

「ご苦労さん。まあ、今回はこのくらいで勘弁してやるか。
ここまでやって懲りなかったら、次は保護団体行きだな」

スラリと伸びた華奢な体躯と、Tシャツにジーパンというラフな格好の青年だ。
彼女はその頭の上で至福の時――まどろみの中に入る前の、あの何とも言えない感覚――を楽しんでいた。

青年は、彼女の主人である、というよりは気の置けない親友のようなものだった。
はじめのうちはまともに戦うことすら出来なかった彼女と真剣に向き合い、ついにはセキエイリーグ優勝まで共に戦った最高の相棒である。
生まれつき虚弱だった彼女が、これほどにまで強くなれたのは、間違いなく彼の力によるものだった。

特等席でまどろみながら、彼女はあの日の光景を見ていた。


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