NO.2

「なんだよ、こいつ鳴けないのか。
ちぇ、なんだか弱っちいし、逃がすか。
ほれ、じゃあな」

何度目だろう。深い森林で、自らの弱さに呆れられ、捨てられるのは。
今回は、まだ優しいトレーナーで良かった。
酷く痛めつけられて、そのまま蜂の巣に投げ捨てられたことを考えれば、まだまだ優しい捨て方だった。
"逃がす"
彼らは、そういった曖昧な表現で"捨てる"ことを正当化する。
自らにとって都合の良くないポケモンは、いるだけで邪魔なのだ。

生まれつき、彼女には声が無かった。
喉がかすかに震え、弱々しい息が吐き出されるだけで、それは音波になる前にどこかへ消えてしまう。
声が出ないということは、即ち戦闘において圧倒的不利に立たされるということ。
声による威嚇が出来なければ、相手は全く臆することなく向かってくる。
そうなれば、電撃による攻撃も当てに出来ない。
ちょっと痺れたと感じるくらいで、敵はピクリとも動じないのだ。

そしてそれは即ち、自分がトレーナーにとって"使えない"ポケモンであることを証明してしまった。

このまま人間に見つかり続ければ、遠くないうちに自分は死んでしまうだろう。
前回はなんとか蜂どもの群れを巻いて逃げることが出来たが、次はそうとは限らない。
あの完全に組織化され、狩りに特化した連中に睨まれれば最後、たとえ人間であっても命はないのだ。

なんとか、人間に見つからないように生活しなければならない。
ただし、実のなる木は人間が通る道か、そうでなければ連中の縄張りに入り込まなければ見つからない。
後者は、命がいくつあっても足らないだろう。それほどまでに危険な連中なのである。
前者は、人間に見つかりさえしなければなんとかなりそうだ。
旅人の通らない夜ならば、安全だろう。そのうちに昼間の食料も確保しなければ。

月明かりの降り注ぐ幻想的な夜。
しかしその光は彼女にとって、人間から隠れるという行為への妨害にしか見えない。
音を立てないように、辺りを見回す。
幸か不幸か、自分には声が無い。息を殺すことは簡単だった。


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