NO.8

  暗い森の中。静かな風が頬を撫でる。
かつて無いほど暖かな、心地よい感覚だった。
短くもさらさらした感覚が暖かい。ちょっとした汗の匂いが鼻をくすぐる。
白いTシャツの似合う少年と、私。
彼は持ち前のマイペースな性格でのんびり歩き、私はそんな彼の頭の上に乗って、自らの明かりで道を照らす。
ゆっくりと、変わり映えのしない景色さえも楽しみながら。
「最近、寝苦しい夜が続くな」とか、「ぐっすり眠るにはどうしたらいいんだろうな」とか
少年が何を言っているのかはわからなかったが、私達は楽しい気分で、他愛の無い話をしながら歩いている。

そこで、私は気づいた。そういえば私には、声が無いのだ。
ならば、これは夢。何故だか幸せすぎるような光景だけれど、どこか寂しいような、夢。

そう、少年は奴と命のやり取りをしていて、私がそこへ飛び込んだのだ。
理由なんかどうだっていい。ただ、私がそうしたかった。それだけで充分。

さて、私が夢を見ている、ということは、即ち私は眠っている、ということに他ならない。
私は、飛び込んでからの記憶がない。つまり、あのやり取りの結果を見ていないのだ。

もしかすると、ここは死後の世界で、私と少年は二人とも奴によって……?
充分に考えられる結果だった。熱くなったとは言え、結局私は何も出来なかったのだ。
そして、優しい少年は私を庇って死んでしまったに違いない。それに絶望して、動けなかった私もすぐに後を追った。こんなところだろう。

そう思うと、少年の笑顔が、とても悲しかった。
朗らかに、私にとっては眩しすぎるくらいの。まだ幼さが残っていて、だけど飾り気の無い。
例えるなら彼は太陽。普段は笑顔を絶やさない。いざと言う時には熱く燃え盛る。
月のように蒼白かった私を照らす、暖かな光。

彼のためならば、私はどこまでも道を照らそう。
そうして、何でもない話をしながら、楽しく歩くのだ。
時に躓いて、よろめくことがあったとしても、彼は熱い心ですぐに立ち直る。
私も、彼のように熱くなろう。

だから、夢ならどうか、醒めないで。永遠に、少年と私の笑顔を……。


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