第25話 目映さの中で



街の入り口を通った瞬間、レイルの目に飛び込んできたのは賑やかさだった。
夜だったが人が絶えることなく通りを歩いている。おそらく自分が今いるのが中央通りに当たるのだろう。
道幅が広く街灯の数も多かった。道の脇には民家や、何かの商店らしき店舗がいくつも並んでいた。
道を歩く人の中には、ポケモンを連れている人も少なくない。
(よし……僕も)
レイルはボールを取り出すと、リーフを出した。
街の光に慣れていないのか、何度か頭を左右に振り、パチパチとまばたきをしてみせる。
「わあー……凄いね! これがラゾンの街かあー」
リーフは辺りを見回しながら言った。目は生き生きと輝いている。
見るもの全てが真新しくて新鮮なものばかりだ。何故だかは分からないが、胸がわくわくしてくる。
「あんまりきょろきょろしてると、みっともないぞリーフ。まあ、こんな都会は僕も初めてだけど……。まずは今晩泊まるところを探さないとな」
ポケモンセンターがあると、ヴィムが言っていた。レイルは道行く人に視線を移し、教えてくれそうな人を探す。
人を見かけで判断するのはよくないことだが、こういう場合は第一印象をどうしても優先させてしまう。

「すみません、ちょっといいですか?」
「ん、何だい?」
道のりを訊ねたのは、ちょうど近くを通りかかった中年の女性だ。優しそうで穏和な雰囲気がレイルにそうさせていた。
「ああ、それならこの広い通り……中央通りを真っ直ぐ行った先にあるよ。建物に大きな文字で『P』って書いてあるからすぐに分かると思うよ」
女性は微笑みながら丁寧に教えてくれた。何となく、聞く側を安心させるような表情だった。
どうやらレイルの人選は間違っていなかったらしい。ありがとうございます、とレイルは短く礼を言う。
「どういたしまして」
微笑みを浮かべたまま女性はレイル達をじっくりと眺めた。
鋭い視線ではなかったが、自分を見定められているような気がして心地悪さを感じる。
「……何ですか?」
「いや、君達はこの街は初めてなのかなって思ってね」
「え、どうして分かるの?」
言い当てられたのが不思議なのか、リーフが聞き返した。
「この街に住んでて、センターの場所を知らない人なんていないからね」
確かに言われてみればそうかもしれない。ポケモンセンターともなるとなかなか目立つ大きな建物なのだろう。
その場所を知らないとなると、初めて訪れた者だと想像はつく。少し考えれば誰でも分かるようなことだったが、意外に鋭い所がある人だなとレイルは思った。

「初めて来たのなら教えとくよ。この中央通りは街灯も道もちゃんと整備されていて、お店もたくさんあって明るい感じだけど、裏通りに差し掛かると……いい雰囲気とは言えない場所もいくつかあるから、気をつけといた方がいい」
「……裏通りって?」
「ああ。ここ中央通りの建物と建物の間に細道があるだろ?」
女性は通りの脇を指さした。この通りに比べるとずいぶん狭い、人一人が通るのがやっとな細い道が顔を覗かせていた。
光の差さない細い通路は、先の見えない闇への入り口にも思える。
「あそこを進んだ先がいわゆる裏通り。正式な名前なんてないんだけど、皆がそう呼んでるんでね。とにかく、裏通りは控えた方がいいよ」
「丁寧にどうも」
レイルはもう一度礼を言う。
「うん。それじゃあ、気をつけてね」
女性は笑顔で軽く手を振ると、背を向けて歩いていった。
二人は彼女の後ろ姿を見送ろうとしたが、すぐに人の波に紛れて見えなくなってしまった。
「やっぱり、人が多いね」
「ポケモンセンターまでにはぐれないようにしないとな」
「うん」
「手……つなぐか?」
「だ、大丈夫だよっ」
リーフは慌てて首を横に振る。この人の中を進んでいくのは恥ずかしい。
だが、恥ずかしい気持ちだけだったかといえばそうではない。彼の気遣いが嬉しかったことも事実であった。
「そうか、じゃあ行こう」
レイルは歩き出す。人混みの間を縫うように進んでいく。
手はつないでいなくても、近くにいれば心で繋がっているような気がする。リーフは彼の後をしっかりと着いていった。

何人もの人とすれ違いながらしばらく進んでいくと、女性に言われたとおりの建物が見えてきた。
二階にあたるであろう部分には、大きく『P』と書かれている。ネオンで明るく輝いていた。
「ここのことだな」
「間違いないね」
確認し直した後、二人はゆっくりとその建物の入り口のドアをくぐった。


戻る                                                       >>第26話へ

 

inserted by FC2 system