Episode1 「出会いは割と偶然に」




「や〜滅茶苦茶強いなぁ〜。ホントに今日トレーナーになったばっかなの?」
新人トレーナー二人の戦いは、ヒトカゲことリューンの勝利で幕を閉じた。
短パン少年……名をシゲユキと言うらしい……は、持っていた傷薬をビッパに吹きかけつつ、相手に話しかけた。……まではよかったのだが。
「熱つつつつ! こらリューン止めろ、俺に火の粉をかけるな〜!」
ヒトカゲのトレーナーである少年は、そのヒトカゲに追い回されていた。若干火の粉が髪の毛に当たったのか、ブスブスと焦げくさい匂いもチラホラ漂っている。
シゲユキとビッパは、目の前の光景に思わず苦笑いを漏らしてしまう。成程確かに、今日なったばかりであることが簡単に分かる。……トレーナーとしてあまり見られたくない光景ではあるだろうが。
「あっつつ……ゴメンゴメン、まだ名前言ってなかったよね。風蔵(かざくら)シュンって言うんだ。シュンって呼んでくれよ」
「あぁ、うん……髪の毛大丈夫?」
シュウと言う少年の髪は未だにブスブスと煙が立っており、軽い災害でも起きてるんじゃないかと疑ってしまうような状況となっている。
シュウ自身は笑っているので恐らく問題はないのであろうが、これでは周りから変な人と思われかねない事態である。
そんなことはとりあえず置いといて、二人は意気投合したのか、お互いのことを教えあうことにしたようだ。

「へ〜、シゲユキも今日トレーナーになったばっかなんだ」
「まぁ、元々こいつ……ビビっちとは仲良かったからさ。必然的にパートナーになったんだよな。ところで……何でヒトカゲなんて持ってるの?」
シゲユキのさり気ない質問に、シュンは「あ〜……」といいつつ若干目を泳がせる。どうやら事情があるようである。

……ここで、ポケモンをあまり知らない人(まぁいないとは思うけど念の為……)の為に、ちょっと補足説明をしよう。
トレーナーになる為の手段は色々とあるが、総じて必要なのは『ポケモンを持つ』という事に他ならない。
シゲユキの様に野生のポケモン仲良くなり、自然とトレーナーになる人もいるが、既にトレーナーである人かポケモンを持っている人から譲り受け、トレーナーになるという人が大半を占める。
そしてそんな初心者でも育てやすいと評判が高いポケモンの一匹が、シュンが持つヒトカゲなのである。

しかし、元々ヒトカゲはシンオウとはまた別地方であるカントーと呼ばれる場所に生息するポケモンである。
何故シンオウのトレーナーであるシュンがヒトカゲを持っているのか? シゲユキはその事について質問をしたのである。
「うーん、説明するのもちょっとめんどくさいけど……いいよ、教えてあげる」



――話は、数時間前に遡る。
ナナカマド研究所。マサゴタウンに居を構える、シンオウでも有名な研究所。
ここの主であるナナカマド博士は、ポケモンの進化とそのエネルギーに関する事柄を研究しており、故に様々な地方を転々としている、指折りの研究者なのである。
そんな研究所に、シュンはたった一人座っていた。というより捕らえられていた。正確に言うと、ちょいキツメのグルグル巻きにされた状態で椅子に座らされていたと言うべきだろう。
「は〜な〜せ〜!! 俺は自分でポケモンを捕まえたいんだ〜!!」
「あ〜もういい加減にしてよね! 観念してさっさと選びなさい!」
奥から出てきたのは、シュンよりも若干お姉さんらしき少女。白い帽子に白衣という格好の研究者見習いで、名をヒカリという。
元々家族がこの研究所で働いており、そんなことから自然とここで働くことが多くなったとのことである。数年前にはトレーナーとして地方を旅していたこともあったが、今はここに落ち着いているとのこと。
まぁそんな情報はシュンには関係なく、どうにかして抜け出そうと躍起になってもがきまくる。そんなシュンに思わずため息をついてしまうヒカリ。
「あのね〜、ポケモンを捕まえるにしろなんにしろ、自分の体一つでどうにかなるわけないでしょ? せめて一匹だけでも連れて行かないと……」
「絶、対、嫌だ! 俺は自分で捕まえるったら捕まえるんだ〜〜!!」
「だから無理だって言ってんでしょうが!」
ギャ〜ギャ〜ワ〜ワ〜あ〜でもないこ〜でもないと騒ぎ始めて既に小一時間。あまりの騒音に、周りの住民もどうかしたのかと見物に来る始末であった……。




「……いやいや、何だってそんなに大騒ぎしたんだよ」
時は戻って現在。聞いただけでも溜息がつきたくなる話に、思わず話を止め質問してしまうシゲユキ。
確かにヒカリという研究者の言うとおり、ポケモンを捕まえるにしろ戦うにしろ、こちらにもポケモンがいないと、まともに勝負することも出来ないのは広く知られたことである。仮に身一つでポケモンを捕らえようとすれば……まぁ、当然フルボッコがオチであろう。
「いや、小さい頃からの夢があったからさ……」
「夢?」
シュンはポリポリと頭を掻いた後、グイッと上を向く。それにつられてシゲユキも空を見る。
「俺、一番最初に手に入れたポケモンで空を飛びたいんだ。それこそ、他の地方にひとっ飛びするくらいまで。途中で捕まえたんじゃなくて、一番最初に気持ちを通わせて、一番最初から苦楽を共にした奴と、一緒に」
そう言う彼の顔は、とても輝いていた。子供心で願った、純粋な夢。
「だから、どうしても最初のポケモンは飛行タイプが良かったんだ。それでつい駄々こねちゃってさ……あはは」
「ふーん……だから最初の相棒をヒトカゲにしたんだ」
確かにヒトカゲは進化すれば、いづれ大きな翼が生え自在に飛ぶことが出来るようになる。故にシュンはヒトカゲをパートナーにしたのだろう。
しかし一体、誰が彼にヒトカゲを渡したのだろうか? まだその部分がハッキリとしていない。
そのことをシゲユキは質問すると、シュンはまたもや目を泳がせた。
「いや、ちょうどその時研究所に連絡をくれた人がいたんだけど、その人がヒトカゲを持ってたんだよ。それで俺が頼み倒して……あっはは……」
シュンの言葉に、思わずシゲユキは頭をガックリと落とすのであった。


「じゃあ、またいつか会おうぜ!」
「おう! それまでにそのヒトカゲと仲良くな」

それから数分後、シュンはそのままシゲユキと別れた。ヒトカゲはキッとした表情のままそのままスタスタと先に行ってしまい、あわててシュンも追いかける。
果たしてシュンの夢は、果たす事が出来るのやら……?

 

〜to be continued〜


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