Episode3 「感謝vs???」



「ここがコトブキシティか〜。やっぱシティって言うからでっかいなぁ〜」

シュン一行はようやく次の街、コトブキシティに到着したところであった。
ここコトブキシティはシンオウでも比較的大きな街の一つであり、ここからクロガネ、ソノオ、ミオと三つの町へと続く、いわばシンオウの交差点のような街なのである。
その為ここを行き交う人々は数多く、色々な情報も飛び交う街でもあるのだ。
本当はもう少しマサゴタウン近辺を拠点として修行していたかったシュンであったが、手持ちの道具(主にボール)などが底をついてしまい、仕方なくこの街までやってきたというわけである。
というのも、未だに手持ちはリューン一匹だけ。そろそろもう一匹ほど手持ちを増やしてやらねば、ますますリューンに負担がかかってしまうのは明白である。しかし……
「うぅ〜、あんまり所持金ないんだよなぁ〜……」
『カゲ……』
そう、新人トレーナーにとって最初の難関とも言えるのは、この資金不足という壁である。
一般的にトレーナーの資金源は、街や道路などで時々行われるトレーナー同士の賭け試合など。地方によっては賞金をかけた大会などもあるらしいが、この近辺にはそういったものは行われてないとのこと。
元々トレーナーになるまでにと貯めておいたお小遣いも多少あるが、今後の事を考えるとあまり消費したくないという考えもある。
だからと言って、ボールが一つもない状況ではポケモンをゲットすることも出来ない。渋々ボールを買おうと歩きだした……その時であった。

「ちょと待つヨロシ。アナタヒョトシテ新人のトレーナーよろしか?」
「は、はい?」
いきなり話しかけてきたのは、口調のおかしく背丈もひょろ長い、巻きひげが特徴的なおじさんであった。
服装もこれまた奇妙で、ド派手な赤色のチャイナ風の服を着こなしているも、ハッキリ言えばあまり近づきたくない雰囲気ではある。
「新人さん、トレーナースクールで勉強するがヨロシよ。おじさん連れててアゲルネ」
「は、い、うえ!? ちょ、はなしtってウワァァァァァァ!!」
『カゲ!? カゲゲ〜!!』

あっと言う間に変なおじさんに手を掴まれ、そのまま猛スピードで連れて(連行)されてしまったシュン。取り残されたリューンも急いで追いかけて行った。
……果たして、シュンの運命は如何に……?


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場所は変わってコトブキシティから北へちょっと行った先にある町、ソノオタウン。
この町はいたるところ(というか町そのものが)花畑となっており、別名花の町とも呼ばれる程。ちなみに名物は、甘〜い密を沢山使った料理の数々に花を使ったお菓子などなど……と、これはどうでもいい情報でしたね。
そんな町だからか、その周囲も綺麗な花が多く咲き誇っており、旅人達もしばし足を止め、見入ってしまうという事もチラホラあるとのこと。

そんな人里から離れた場所に、とても綺麗に咲き誇っている花畑が存在する。
いつ誰が言ったか、そこは通称「ソノオの花畑」と呼ばれている場所で、そこにはとても珍しい花も咲いているという噂もある。
あまり人が訪れないので、花を愛するポケモン達の楽園として知られている場所であることでも有名なのだ。
……そんな花畑で、“ソレ”はある物を必死に探していた。
小さなその体はあっちへウロウロこっちへウロウロ……よほど大切な物なのだろう。“ソレ”は必死な表情であった。

(……どこで落としたです……? あれがないと……私は……)

“ソレ”は涙目になりながら、必死で探していた。……故に、目の前にあった物体に、気がつくことが出来なかった。

(――痛っ!?)

ゴツンと音をたてて、“ソレ”は思わず尻もちをついてしまった。
“ソレ”は思わず頭を抱えてしまうも、ゆっくりと顔をあげる。目の前に立っていたのは、一人の少年であった。
年は見た目では12〜3歳前後であろう、まだ若い。しかしその黄土色の瞳は何となく覇気がなく、どこか濁っていた。
髪は黒く無造作にしているためかどこかツンツンと立っている。上は黒と濃い赤という上着に、濃い青のジーパンとかなり暗く、彼のオーラのようなものは、今にも消えてしまいそうなほどに儚なかった。
思わず見入ってしまっている“ソレ”を確認した後、少年はモンスターボールを取り出し、小さく呟いた。
「……悪く、思わないでくれよ」
瞬間、ボールから突然光が飛び出し、中にいたポケモンが形作られる。無論“ソレ”もすぐに事態を把握し、一目散に逃げ出した。

出てきたのはどす黒い紫色をしたカエルのようなポケモン、ドクロッグ。手にある毒爪で、相手を攻撃することを得意とする種族である。
ドクロックはキッと目を尖らせると、大きくジャンプしつつ逃げる“ソレ”に向かって、弱点である「毒づき」を繰り出した。
しかしジャンプした際にできる影で、“ソレ”は辛うじて毒づきを交わすことに成功する。しかし退路をドクロッグに塞がれ、逃げ場をなくされてしまった。
『キシシシ……』
ドクロッグ種特有の、嫌味な笑い方。しかしこの時既に、“ソレ”の攻撃が始まっていることに彼は気づいていなかった。
(――お願い、力を貸して!!)
瞬間、周囲の花々が、ニョキニョキとドクロッグの体に拘束し始める。あまりに突然の攻撃にドクロッグはとっさに毒爪を振るおうとするも、時既に遅し。
もはや蔓のごとき花々は一瞬でドクロッグを縛りあげ、全身を包むと同時に力強く彼を圧迫し始めた……!!
『……!! ……!?!??』
最早動くことすら叶わぬドクロッグを尻目に、再び“ソレ”は駈け出した。

“ソレ”が使ったのは、「草結び」と呼ばれる技。 
本来は草花を操り、対象となる敵の足もとに罠を設置、相手を転ばせるといった使い方をする技である。
がしかし、才あるものが使用すれば、このように全身を包み込んで圧死させるという何とも凶悪な技にする事も可能なのだ。無論“ソレ”はドクロッグが死なないように加減をしてはいるが、食らえば戦闘不能はまず避けられないであろう。

ようやく追いついた少年は現状を察して舌打ちをした後、二個目のボールを取り出す。……しかし、そのボールは通常とはまるで様子が違っていた。
まず、漂うオーラが明らかに違っている。ボールの周りには冷気が漂っており、中にいるポケモンの力を制御しきれていないことが明白である。
加えて、少年もこの中にいるポケモンを出す事に、戸惑っている。出来ればこれだけは使いたくなかったといいたいような、悲痛な表情をしている。
「……くそ、こうするしかないのか……!」
そんな言葉と共に、少年は中にいるポケモンを召喚する……!


一方花畑を抜けた“ソレ”は、敵の追手が来ないことを確認しているところであった。
全速力で走ったせいであろう、かなり息が乱れているものの、すぐに追手が来ていない事を確認し、フウッと小さく安堵の息を漏らす。
少し休んだ後、もう少し離れようと思って立ち上がった…その時であった。“ソレ”の視線に、キラリと光る何かが映った。
その何かは、どうやら首飾りのようであった。細い糸のようなものに繋がっているのは、赤い花をモチーフにしたらしい飾りが、光を受けて輝いていた。
その首飾りを見たとたん、“ソレ”は瞳を爛々と輝かせた。
(あ、あった!! こんなところに……)
そう言いかけた、その瞬間であった。
背後から、凄まじいまでの冷気と共に“ソレ”を力強く踏みつぶす一匹のポケモン。
本来出てはいけない苦悶の声を出しつつも“ソレ”が辛うじてみたものは、まるでシルクのように美しくなびく尻尾であった。
額にある水晶のようなものと風になびくほど長い鬣は、そのポケモンの強さを物語るかのように燦々としており、そのポケモンの瞳を見た瞬間、“ソレ”は力の差をありありと見せ付けられた感覚に陥ってしまった。
(……“花と風の妖精”シェイミ。悪いが、少し付き合ってもらうぞ)
感情が一切こもっていない冷徹な声に、一層縮みあがるシェイミ。
自分はここで終ってしまうのかと涙を流しかけた……その時、不意に目の前に、何かの影が見えた。
その影はどうやら人間らしく、こっちに近づいてくる。さっきの少年かとも思ったがどうやら違うらしく、ボロボロの迷彩服と全身泥だらけという女性……先ほど森から出てきた、あの迷彩少女であった。

「ありゃ〜遅かったか〜。ていうか、何でここに北風の化身スイクンがいるわけよ! 聞いてないし!」

ブツブツ文句を漏らしつつ、それでも何故かこの状況を楽しんでいるらしい少女に、シェイミは再び縮こまってしまうのであった。

 

 

〜to be continued〜
 


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