Episode4 「シェイミ争奪戦!!」



(……小娘。邪魔をするつもりか?)
シェイミを踏みつけた状態のまま、スイクンは少女を睨みつける。少女はこめかみをピクッと動かすものの、至極平然とした態度のまま仁王立ちをしていた。
「テレパシーは使えるようね。流石、ジョウト三風神の一角というわけかしら? それと、私にはリルアっていう名前があるの! 小娘なんて言うな!」
ビシッと人差し指を向ける少女、もといリルア。最も、現在の砂まみれ泥まみれの姿では、あまりいい格好とは言えないのだが。
ここでちょっと補足を。通常ポケモンは人が喋る言葉、つまり言語を話すことはできない。……当たり前のことであるが。
だが一部のポケモン、例えばエスパータイプなどは、自分の頭にある言葉を相手の脳内に直接送り込むことにより、会話をすることができることがあるのだ。
この現象はテレパシー現象と呼ばれており、一体どういう原理でそういったことが行われているかと言うのは、未だ分かっていないのが現状である。
……余談であるが、この小説では言語によってカギカッコが異なっている。「……」では人が話す言語で、『……』はポケモンの言語。(……)はテレパシー言語と言う風に分かれている。今後の参考にしてください。
さて、そろそろ本編に戻ることにしましょう。



(ふん。そんな幼児のように小さな体で威嚇されても、怖くも何ともないがな)
そんな事を呟くスイクンに、リルアはまたもこめかみをピクピクッと動かす。どうやら「小さい」という部分で反応しているらしく、顔は笑っているが、かなり不気味なオーラを醸し出しつつある。
とそんなとき、ようやく先程の少年が息を切らしながらやってきた。
「はぁ、はぁ……スイクン、ちょっと、はやすぎ……」
(貴様が遅いだけだろう、レン。既にシェイミは捕らえた。さっさとあの小娘を始末するぞ)
少年――レンという名前らしい――の不満もそこそこに受け流し、スイクンはリンを再び睨む。しかしその視線の先にいたのは、さっきとはまるで様子が違う光景であった。
「……あんた、一体私のこと、何歳に見えてるわけ……?」
明らかにどす黒い殺気を辺り一面に散布させているリルアに、思わずたじろいでしまうレン。と、ついでにスイクンの足元にてもがいているシェイミ。
スイクンのみは平然とした表情であったが、内心は動揺していた。伝説と言われる程の実力をもつポケモンとしての勘が、これ以上少女を怒らせない方が無難だと判断したためである。
しかし状況が読めないレンはここで、言ってはならないことを口にしてしまった。
「何歳って……僕と同じ十代前半じゃ……ないの?」
(ば、バカ者! それを言っては……)



ブツン。



小さく、しかしはっきりと聞こえた、糸が無理やり引き千切れたような音。
と同時に、無表情となったリルアがゆっくりと右手に拳を作る。ギリギリと音を立てるそれに、スイクンの顔を一気に険しくなった。
(逃げろ! あの娘お前を殺そうt!?)
正しく、一瞬の出来事であった。先ほどまで若干離れていた場所にいた少女がスイクンの目と鼻の先にまで接近し、頭を上から押さえつけた状態のまま顎を上空へと飛ばすかのように強打する。
ただでさえまともに当たれば脳が何度も揺れるであろう攻撃であるアッパーパンチを、頭を押さえつけることによって逃げ場を無くし、更なる威力でスイクンに襲いかかった。
流石の伝説のポケモンとはいえ一瞬で気を失い、その場に崩れ落ちかけ……そこに、少女は回転を加えた蹴りを放ち、そのまま4メートルも吹っ飛ばす。
誰も、動くことが出来なかった。レンは崩れるように後ろに倒れ、座り込んでしまう。解放されたシェイミも暫くぼーっとしてしまったが、すぐに態勢を整え、三度走り始める。
それに気づいたレンも急いで追いかけようとするも、真横から少女の拳が唸りをあげ、レンの手前に被弾する。……拳なのに被弾という例えもおかしいが、軽く地面をえぐったその威力は、小型バズーカを使用したかともいえるものであった。

「逃がさないわ。あんたには色々と聞きたいことがあるしね……」

見た目は同年代である少女の睨みに、レンは思わず唾を飲み込んでしまった。


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一方逃げたシェイミは、三度襲われているところであった。しかも相手は、先ほどリルアに沈黙させられたはずのスイクンであるからたまったものではない。
とはいっても、先ほどとは違い足元はフラフラとさせ、目も若干照準が定まっていない。技の方もシェイミに掠るどころか検討違いな場所に放ってくるので、先ほどの攻撃が全く効いていないというわけでは無いようである。
(く…そ、逃げるな……)
ぼやける視点を無理やり合わせ、絞り出すかのごとくスイクンが放ったのは、冷凍ビームと呼ばれる技。
その名の通り、直撃した相手を一瞬で凍りつかせる極寒のエネルギー波を放つ技である。草タイプであるシェイミがまともに食らえば、良くて重度の凍結、最悪仮死状態まで持ってかれてしまう。
無論シェイミもただ黙ってこの技を食らうわけではない。自分の目の前に草結びで急成長させた蔓を別の蔓に絡ませるようにして、網目の壁を作りだす。
水などの液体や吹雪のような技であればこの壁は意味がないが、冷凍ビームは当たった物体を凍りつかせる技。故に、蔓の壁を凍りつかせる事は出来ても、その先にいるシェイミに当てることは難しい。
チッと舌打ちをし、氷の破片を混ぜた突風で凍結した蔓の壁を壊すスイクン。しかし、既にシェイミはその場所から姿を眩ませてしまっていた。
(く、さっきの攻撃さえなければ……!!)
荒い息を整えようと、スイクンは膝を落とす。さっきの攻撃とは無論、リルアの奇襲のごときアッパーパンチのことであろう。
身体的なステータスは、スイクンは比較的高いポケモンである。が、どんなに屈強な戦士でも脳を激しく揺らされては脳震盪を起こさずにはいられない。というか体の構造上仕方のないことである。
未だに焦点が合わない頭をブンブンと振って無理やり奮い立たせ、後を追おうとする。が、やはりそう簡単には治ってくれないらしく、再びガクッと崩れおちてしまう。
……スイクンが立ち上がれるようになるには、まだもう少し時間が必要のようであった。


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一方先程の場所では、(見た目は)少女リルアの尋問が始まったところであった。
リルアはゆっくりとレンを中心に回り始め、ポツポツといった風に話し始めた。
「まず、聞きたいことは全部で三つ。一つはまぁありきたりだけど、何故”あなたも”シェイミを捕まえようとするの?“わざわざ他の地方から来る”っていうのは、よっぽど執着していると思えるんだけど」
リルアからの質問に、思わず驚いた顔をするレン。「何でその事を知っている?」といったような顔をしたので、リルアは軽く微笑みつつ答える。
「私も別の地方から来たから、何となく分かるのよ。二つ目、何であなたはスイクンを連れているのか。あれはあなたのような子供が使いこなせるポケモンでは決してありえない……」
「き、君だって子供じゃないか! どうして同じ子供にそんなこと…」
「あんたやっぱり死にたいようね……」
リルアは再び拳を握り締めると、レンは慌てたように首をブンブンと振る。先ほどの攻撃で、怒らせると怖いということが分かったのだろう。
「――分かれば宜しい。最後、あなたは他に仲間がいるのかしら? せめてこれだけでも教えてほしいのだけど」
レンは悔しそうに少女を睨みつつも、ゆっくりと首を横に振った。
「……成程、どうやら“あいつら”とは無関係のようね。でもそれはそれで、この子の処遇を考えないといけないわね……」
そう言って、リルアが目を逸らした瞬間だった。レンはベルトのボールからドクロッグを瞬時に呼び出して、足元に毒針を撃つよう指示する。
リルアがすぐに気づき捕らえようとするも、辺りは一瞬で砂埃がもうもうと立ち込め、収まる頃には既にその姿は消えてしまったのであった。
「げほえほ、逃げられちゃった……。あぁもうあのガキ……今度会ったらただじゃおかな……ゲホ、オエ……」
悔しそうにそう毒づくリルア。……しかし、一体彼女は何歳なのであろうか……?



――難を逃れたシェイミは、一体どこへ行ったのか?


――少年レンの目的は? そして何故スイクンが少年に協力しているのか?


――そして、結局一話丸々出番が無かったシュンは、どうこの物語に絡んでくるのか?





……物語は、まだ始まったばかりである。

 

 

〜to be continued〜
 


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