Episode8 「妖精と鬼の出会い」



爽やかな日差しが、シェイミの顔に降り注がれる。ふと眼を覚ました彼女が見た光景は……あまりに様変わりしていた。
「あら、ようやくお目覚め? ……待ってて、今ご飯持ってきてあげるから」
今いるのはさっきまでいた建物の中なのではなく、小さな小川が流れている道路道。そして目の前には小さな焚き火に大きな寸胴鍋があり、何かをコトコトと煮 込んでいる。そしてその鍋をかき回しているのが……昨日スイクンと呼ばれる(らしい)ポケモンを倒した人間の姿があった。
一気に目が覚めたシェイミはすぐに戦闘態勢をとる。まだ足は若干痛むもそれを気にしている暇などない。下手したら自分も彼女に殺されかねないのだから。
しかし人間は割と笑顔でポケモン用に作ったフーズを山盛りにした皿をシェイミの前に置く。どうやら食べろという意味らしい。

「一応ポケモンが食べても大丈夫なものばかりだから、安心して。流石にお腹に何かいれないと不味いでしょ?」
そう言って、自分の分の器に鍋からすくった料理を入れ、スプーンですくって食べ始めた。……おいしそうに食べているが、シェイミにはそれが嘘ではないかと疑わざる負えなかった。
――何故か? それは目の前にあるポケモンフーズの色が、濃い紫色というもはやツッコミすら入れられない色をしているからである。いくら食べても大丈夫だ と言われても、これでは説得力がない。というか、よく見ると彼女が食べているものも紫色をしている。……腹を壊さないのであろうか?
そんな疑いの視線に気づいた人間は、あぁ大丈夫、と言ってニッコリ微笑んだ。
「毒なんか入ってないって。そりゃ色はまぁ毒ガエル並みに酷いけど、味は保証するから」
全然フォローになっていない。シェイミはますます疑うが、考えてみればまともな食事はここ何日かとっていないのでとてもお腹がすいている。
一度認識してしまうと、余計にお腹がすいてくる。シェイミは恐る恐る紫色のフーズを口に含み、噛み砕いた。

――甘い。とても甘く、美味しい。ただ甘ったるいだけではなく、適度に渋みや苦みが効いていて、とても深い味わいである。
(お、美味しい!)
思わずテレパシーで叫んでしまい、その後はもう、ただ我武者羅にがっつくだけであった。


(御馳走様でした!)
「はいお粗末様。やっと普通に話してくれるようになったわね」
あっという間にすべて平らげたシェイミ。そんな彼女を見てにっこりと笑いながら後片付けをする人間。すでにシェイミの人間に対する警戒心はなくなっていた。
人間は空っぽになった鍋に食器をガサガサと放り込み、改めてシェイミに向き合った。つまり、食器を片付ける前にシェイミに話す事があるということなのだろう。
「まずは自己紹介ね。私の名前はリルア、あなたを守るためにこのシンオウまで来たの」

いきなり突拍子もない事から始まったため、シェイミは思わず目をキョトンとさせた。いきなりこの人間……リルアは、何を言っているのだろう。
「簡単に言うと、あなたは狙われているのよ。自分では気づいてないかもしれないけど、あなたはとても珍しいポケモン。だから、あなたを捕まえてお金に変えてしまおうという悪い輩が大勢いるの。悲しい事だけどね」
そう言われても、実感が湧かない。……自分が狙われている? 誰に、一体何故? 私はただ、あの花畑でゆっくりと暮らしていただけなのに……。
「……そうね。例えるなら、この前あなたを襲ったあの男の子。あの子のようにあなたを傷つけようとする奴が、他にもまだ二、三人いると思ってくれればいいわ」
シェイミの体を悪寒が突き刺さった。あんな風に襲ってくる人間が、まだいるというのか。思わず気が遠のきかけたもののなんとか踏みとどまった彼女は、体はブルブルと震わせてしまう。
そんなシェイミを哀れな目で見るリルア。彼女自身、シェイミをここまで怖がらせたくはないと思っているのだが、事実は事実。ここではっきりさせとかなければ、余計に苦しめてしまうと、彼女は知っているのだ。

(わ、私……そんな……)
「大丈夫、あなたをそんな悪い奴から護る為に、私はここにいるんだから」
にこりと微笑むリルアに、シェイミは若干であるが安堵する。スイクンすら吹き飛ばす彼女がいれば、確かに大抵の危機は乗り越えられる。そんな気になるような、そんな安心感が、リルアに感じられた。

……しかし。たった今思い出した。シェイミにとってかけがえのない、大切なものの事を。

(……ペンダント)
「ん? 何?」
(大事なペンダント! すっかり忘れてた、早く探さないと!!)
必死な形相になったシェイミに、リルアも思わず面喰ってしまう。
「待って待って、えと……ペンダント? 大切な物なの?」
(そうです! 早く探さないと……)
シェイミは何とかして花畑へと戻ろうとするが、未だに右前脚に鈍い痛みが襲う。随分と良くなっては来ているが、まだ全快とは言えないようだ。
そんな彼女を、リルアはひょいっと持ち上げた。思わずおっかなびっくりと言った表情になる彼女に、リルアはニッコリと笑いかけた。
「言ったでしょ、あなたを護るって。あなたが行きたい場所イコール私が行くべき場所と言うわけ。……おわかり?」
シェイミはポカンとした表情のままであったが、ゆっくりと頷いた。それを確認すると、リルアは彼女を降ろして鍋を軽々と持ち上げた。
「オーケー! じゃあこれ洗い終わるまで待っててね。それが終わったら、すぐに出発よ!」
袖をまくって意気揚々と川に向かうリルア。そんな彼女を、頼もしく見つめる視線があるということを彼女は背中で感じ取ったのは……また別の話である。




――そして日にちは流れ、三日後。それぞれの物語が、リンクしていく……。

 

 

〜to be Next stage〜


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