Episode10 「夜の森の中で」



時刻は、もうすぐ夕方を指す頃であろうか? リルアとシェイミは未だに森の中を彷徨っていた。
朝早くから森に入ったのだから、既にほぼ一日中歩き回った計算となる。それなのにリルアはそんなことを感じさせないかのようにピンピンとしており、依然力強く木々をかき分け道無き道をズンズンと進んでいく。
シェイミは歩き疲れたのかリルアの頭の上でへたっていた。まぁそうなっても仕方ないのだが、彼女は元々体力が無かったということもある。彼女曰く、今まで生まれてこのかたあの花畑から出たことが無いとのこと。これには色々と理由があるのだが、これはまた後日説明することにしよう。

(リルアさん……いつまで進むんですか……? もう夕方です……)

既に満身創痍という声のシェイミに対し、リルアはとても意気揚々としていた。

「何いってるの、まだ夕方じゃないの。まだまだ探索できるって。ん〜、まぁあと二、三時間したらキャンプにしましょうか」

その言葉を聞き、一気にシェイミは青ざめた。このままでは、体が持ちそうにない。
何とか出来ないかと疲労した体を精一杯動かして左右を見て……ある物を見つけた。
それはかなり樹齢があったろうとても大きな枯れ木。その下にちょっとした穴があり、人一人は辛うじて入るだろうというものではあるが、雨風は辛うじて防げそうだ。

(リルアさん、あの木、あそこで今日は休みませんか? ほら、これ以上深く森に入っても何にもなりませんし……)

何とか指さしリルアにその木の存在を知らせる。リルアもその木に気がついたらしく、む〜と考え込むようにしている。
やがて決心したようで、ゆっくりと枯れ木に近づいて穴をのぞき込む。中は以外と広く、体を若干丸めさえすれば人一人と小ポケモン一匹眠れるスペースは十分ある。

「……そうね、あまり無茶するのもあれだし、今日はここで寝ましょうか。こんないい穴、他に無いかもしれないし」

その言葉を聞き心底ほっとした表情をシェイミがしたことは……言わなくても分かるだろう。





数時間後、辺りはすっかり暗くなり、一人と一匹は枯れ木の下にて夕飯を食べている所であった。
夕飯と言ってもリルアの腰のバックに入るサイズのブロック状の携帯食料のみ。腹は溜まるもとてもボソボソとしており口の中の唾液を殆ど持ってかれてしまう。
幸い探索中に見つけたモモンの実が数個あるのでそれで水分を補うも、やはり口の中はパッサパサになってしまう。この辺が携帯食料のいかんせんところである。しかもマズイ。

(……おいしいんですか、それ?)
「マズイに決まってるでしょ……」

シェイミは小食らしく、モモンの実を一個食べただけでお腹がいっぱいになったとのこと。
相当疲れたのか、大きな欠伸を一つして今にも眠りに入ろうかと大きく伸びをしている。しかしなにやら聞きたいことがあるらしく、眠らないよう必死に眼をこすって起きていようとしていた。

「どうしたの? 何かお話がないと眠れないのかしら」
(いや、ちょっと気になって……。あの、私を狙っている人って……誰なんですか?」

ふと、リルアは口の中に入れかけたブロックをピタッと止めた。

「……何でそんなこと聞くの?」
(私、未だに自分が狙われていることが信じられないんです。私はただ、花畑でひっそりと暮らしていただけなのに……)

シェイミの声は――テレパシーであるとはいえ――とても寂しげであった。
リルアもふぅっと小さくため息を漏らして、ゆっくり、語り始めた。


「……前にも言ったけど、あなたはとても珍しいポケモンなの。そしてそんな珍しいポケモンを無理矢理捕まえて売り買いしようとする人間がいる……そこまではいいわね?」

コクッと頷くシェイミを確認し、リルアは話を続ける。

「ちょっと色々あってね、私はあなたを狙うそんな悪者がいることを知った。でも、それが一体どんな連中なのか詳しくは知らないわ。ただ三人組であり、身体的な特徴、そしてそれなりに有名な奴らと言うことは知っている」
(この前襲ってきた、あの男の子は……?)
「その子は違うわ。あなたを狙っているのは同じだけど、もっと明確な理由があると私は睨んでいる。……多分、とても切羽詰まった、そんな理由が」

そう呟くと同時に、シェイミはとても大きな欠伸をする。どうやら限界が来てしまったようだ。

「さ、続きは明日にでも話してあげるから、今日はもう眠りなさい。見張りは私がやっておくから」
(はい……おやすみな…さ……)

そう呟き、シェイミはそのままスゥスゥと眠り始めた。
起きないようゆっくりと抱え、シェイミを穴の中に入れると、リルアはふぅっと小さくため息を漏らした。

「……子守も案外、楽じゃないわねぇ」

そう小さく、彼女が愚痴をこぼした事を知る者はいない。


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真夜中頃、レン一行にも動きがあった。
スイクンがいきなり、この場を離れると言ったのだ。何故急に離れるのかとレンが聞いても全然答えてくれず、ただただ森の奥へと走るだけ。
ようやく立ち止まったかと思うとスイクンは周りをキョロキョロとみ、辺りを依然警戒しているようである。

「はぁ……はぁ……一体どうしたの……?」

そう聞くレンであったが、依然スイクンは何も言わない。
暫く……正確には何十分も経った後、ようやくスイクンは口を開いた。

(…何か、嫌な気を感じた。……用心した方が、いいかもしれん)

急に、木々がざわついたような、そんな気がした。レンは思わずブルッと体を震わせた。

 

〜to be continued〜


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