Episode11 「深夜の戦闘」



草木も眠る丑三つ時――つまり深夜二時。レンとスイクンは未だ辺りを警戒しているところであった。

余談であるがこの丑三つ時という言い方。元々は日本の古来の時間表現を元とされている。十二支のはじめ、つまりネズミを午前零時に置き、二時間毎に丑、寅、兎、龍と順々に割り振りされ、最後の亥が午後十一時から十二時までという言い方を、昔の人は言っていたのだ。
つまり丑三つ時というのは、丑の刻の最初、つまり午前二時を指していると……そういうわけである。
以上、ナレーターによる(多分)わかりやすい文学でした。引き続き本編をお楽しみ下さい。

「……この説明、別にいらないんじゃ……?」
(少しでも文章を多く入れようとする作者の足掻きだ、気にするな)



深夜と言うことも相まって、辺り一面全て闇が広がっている。聞こえてくるのは、風が木々をなぞる音のみ。
スイクンが感じたという邪悪な気。それが一体何だったのかは不明であるが、北風の化身とも恐れられるスイクンが危険と感じたのだ。よほどの事なのだろう。
レンも眠気を何とか打ち払い辺りを見回すも、人間の視力などたかが知れている。こんな真夜中では、分かるものも全く分からない。
だが、スイクンには辛うじて見えているらしく、何かを見つけ体を強張らせた。

(……来るぞ)

その一言に、レンも一気に戦闘態勢を取った。
念のためドクロッグを外に出しておく。これでどうにかなるものでは無いかも知れないが、念のためである。
やがて草を踏みしめる音が、レンの耳にも届く。グシャ、グシャと言う音がこちらに徐々に近づき、ついに目の前の茂みがガサガサと動き出す。
そして出てきたのは……何と言えばいいか分からないものであった。

「あら〜、何か大物がいそうな気がしたけど……まさかここまでの上物だったとはねぇ〜ん……」

口調は安っぽい女言葉であったが、見た目はそれと明らかに異なっている。
まず、とても体が大きい。ただ大きいだけでなく全身見事に鍛えられており、パッと見ただけでももの凄いパワーを持っていそうである。
この極寒の地ではあまりに寒すぎるであろう赤のノースリーブは彼女……いや彼の鍛え抜かれた体を辛うじて包んでいるかのようにピチピチであり、恐らくジャージを破ったような半ズボンのため見える足も、これまたとても図太い。
明らかに不振人物というこの格好に、レンは思わず一歩引いてしまう。スイクンは嫌そうな顔を一つすると、憎々しげに吐き捨てる。

(貴様……前に一度あったな)
「覚えてくれてて光栄だわぁ。前は後一歩の所で逃げられちゃって……残念だったわぁ」

話について行けないレンは小声でスイクンに目の前にいる変態の事を聞くと、スイクンは苦々しくこう答えた。

(密猟者という奴だ。一度罠にかかったことがあるが、その時は何とかなった。だがまた逃げられるかは分からん。ああ見えて、かなりの手練れだからな)

スイクンはそう言いつつ、変質者への警戒は忘れない。確かに目の前にいる男からは圧倒的な殺意が感じられるのを、レンは痛いほど実感する。
十秒、二十秒とじりじりした時間が流れるも、変質者が不意に手を両手とも挙げた。……何のつもりなのだろうか?

「勘違いしないで。今はまた別の獲物を狙ってるから、今はあなたを狙っている訳ではないの」
(フン、どこまで信じられるものやら……)
「あら、男の嘘ほどみっともないことは無いわ。私の中身は女の子なんですけどね」

「あぁ、やっぱりそうなんだ……」というレンの小さなセリフは、風の音でかき消された。
しかしまたも変質者はニヤッと悪そうに微笑むと、小さくこう続けた。

「最も、あなた達も同じ獲物を狙っているとなると……話は別だけど」

瞬間、男の背後から無数の白い線がレン達に襲いかかる――!!


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ふと何かを感じ、リルアは眼を覚ました。
いつの間にか穴の外で眠ってしまってしまい、思わず体を震わせてしまう。危うく風邪をひいてしまう所であった。

「危ない危ない、もうちょっとで体調崩しちゃうところだった……」

シェイミを起こさないよう何とか体を丸めて穴に入ろうとし……ふと遠くが何か騒がしいと言うことに気がついた。

「……戦闘音かしら……? 一体誰が……」

気にはなったが既に深夜なので、そのまま眠りにつくリルア。
何とか穴に入るとシェイミがうぅんと寝返りをうち、腕にしがみつくように体を寄せてきたのを、リルアはまるで我が子を見るような表情で見ていたとか。



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「……やられたわぁ、まさかこんな事されてたなんて。悔しいけど気がつけなかったわぁ」

男の前にあるのは、粉々に粉砕されただろう氷の固まりと、飛び散った欠片のみ。

白い線に襲われそうになった刹那、スイクンは瞬間的に冷凍ビームを地面に放ち、辛うじて攻撃を防いだのだ。
すかさずドクロッグが氷を粉砕し、気がついたときには全員姿をくらませてしまったのだった。

「でも、私の手持ち達にとってこの森はホームグラウンドのようなもの。逃がさないわよ……」

ニッコリとあくどい微笑みを浮かべると、男は手持ち達の後を追い始めるのであった。




                                              〜to be continued〜


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