Episode14 「両者の目的」 焚き火がパチパチと燃える中、緊迫した状況が辺りを包む。既に午前四時を過ぎ、もうすぐ朝になるんじゃないのかという時間帯のはずであるが、みな眠気もなくこの状況に飲まれないようにと必死であった。 リルアはビッと指を三本立てると、ゆっくりと話し始めた。 「聞きたいことは主に三つ。まず一つはあなたの本当の名前。二つ目は何故スイクンと共に行動しているか。ここまでは前回と同じね。よろしい?」 レンはコクリと頷くと、さらにリルアが続ける。 「最後の質問は違うわ。三つ目は……あなたがシェイミちゃんを狙う――動機。これは私の直感だけどあなたは売買目的でこの子を追っているとは思えない」 スゥッと大きく息を吸い込むと、さらにリルアは続ける。 「私が思うに、あなたがシェイミちゃんを狙う理由と、スイクンと一緒に行動しているということは深く関係している……違う?」 ゆっくりと確認するように話すリルア。レンは考え込むようにジッと焚き火を見つめ――。 ――やがて、ポツリポツリと話し始める。 「……僕の名前は、レント。陽塚(ようづか)レント。……オレンジ諸島の出身です」 (いいのか、レン) 「多分この人には嘘は通じないよスイクン。……本当の事を、話します」 「僕の住む島は、とても環境が良くて、住みやすい島でした。オレンジ諸島は基本環境がいい場所なんだけど、それを踏まえてもとても綺麗な……場所だったんです」 「過去形って事は、何かあったのね」 「はい。数年前にロケット団と呼ばれる組織が、ある工場を造りました。何かの薬品を開発する為か大がかりな機械云々を作る為かは分からないんですが……」 ロケット団。 かつてカント―地方で暗躍した、秘密結社。その活動は様々で、一都市を支配する事など朝飯前であったそうだ。 さらにこれは誰も知らないことではあるが……どうやら生物を生成するという神をも凌駕しかねない事もしたとも言われている。 ただその事が切っ掛けで内部紛争がおこり、最後は小さな少年少女三人によって完全壊滅したそうである。 そしてそのボスは、現職のジムリーダーであったとも噂されているが……既に何年も経った後なので、事実は定かではない。 思わぬ単語が出てきたため、場の空気はさらに張り詰めた。どんなに遠い地方でも、ロケット団の名を知らぬ者などそうそういない為である。 「……その工場から流れる汚染物質は、島を一瞬で人が住めなくなってしまう無法地帯にしてしまうには十分なものでした」 「読めてきたわよ……スイクンの能力は汚染された水を一瞬で浄化させること。そしてシェイミちゃんには悪い空気を浄化して爆発させる、シードフレアがある……そう言うことね?」 レントが苦々しくコクリと頷いた。 「…既に工場は廃棄されましたが、未だに汚染物質は残っていて、もう人の力ではどうしようも無くなりました」 シェイミの能力の一つ、シードフレア。汚れた空気を体内に納め、それを浄化する爆発力で相手を攻撃するというシェイミ種のみ使うことを許された特殊な技。 汚れた空気であればあるほどその爆発力は凄まじいものとなり、一説では一つの森を一夜にして壊滅させたという報告もある。 ……ただ確かに、その力があれば汚染された空気を一瞬で元に戻すことは可能だろう。ただ、小分けにしないと島が一瞬で吹き飛びかねないが……。 「初 めはシェイミだけを狙ってたんですが、スイクンに会えたのは本当に偶然でした。その時は体がボロボロになるまで挑み続けて……最後には、協力してくれる事 になったんです。そして船を乗り継いでここシンオウにやって来て、ミオにある図書館で本を読みあさり、やっとここまで辿り着きました。……だから、お願い です」 レントは正座をし、深々と土下座をする。 「どうかシェイミを渡して下さい!! ……島を救うには、もうこれしか手がないんです!!」 誰もが皆、息をのんだ。あまりの気迫に、全く関係がないリューンでさえ、この後どうなるかをジッと見つめていた。 誰もが皆、リルアに、そしてシェイミの言葉を待った。シェイミはオロオロとするのみであったが、リルアは小さく微笑んだだけであった。 「そりゃ〜ありがたいわ! 私としてもそれは願ったり叶ったりなのよねぇ♪」 何ともこの緊迫した場に不釣り合いな嬉しそうな声。思わずフリーズしてしまうレントであったが、リルアがさらに続ける。 「今度はあたしが色々言う番ね。あたしの名前はリルア、職業は……探偵? みたいな事をしているわ。今回は訳あってこのシェイミちゃんの身を守る事にあるのはもう知られている事よね?」 未だ半フリーズしているレントであったが、辛うじて首を縦に振る。それを確認しリルアもその先へと続ける。 「でももう一つ任務があって、それがシェイミちゃんを「安全な場所まで連れて行く」または「信用できるトレーナーに渡す」なのよ。引き取ってくれるって言うなら、私としても仕事が減って助かる訳よ〜」 (……えっと、私の意見は……?) 「あぁ勿論シェイミちゃんの意見も尊重するけど、何時までもあなたの世話はできないのよゴメンね〜♪」 何ともまぁ気の抜けた説明に、レントはもう苦笑いを浮かべるだけであった。 しかしスイクンは今の説明では納得がいかなかったらしい。即座にテレパシーを発動し、反撃する。 (では聞くが、一体誰からシェイミを守るというのだ? そして先程我々が遭遇したあの男……主はそれを聞いたとき、あまり驚いていなかったように思える。さらに言わせてもらうと、貴様が言ったシルフィーゼという者。……一体何者なのだ?) アハハと楽しげに笑っていたリルアの声が次第に小さくなり……その顔は、一気に険しくなった。 まるで牽制しあう侍がごとく、相手の顔を睨みあうリルアとスイクン。もし漫画のように視線で相手を攻撃することができていたなら、今焚き火の上ではもの凄い大戦争が繰り広げられていただろう。 やがてリルアが両手を挙げる。降参、という意味だろう。 「流石伝説のポケモン、負けたわ。確かにあなた達が会ったのが、シェイミちゃんを狙う密猟者よ。依頼者の話じゃ後二人いるそうだけど」 シェイミは若干体を震わせる。それを優しくなだめた後、リルアは続けた。 「そして確かに私には、シルフィーゼという名のポケモンがいる。ただ私はトレーナーじゃないから、出来れば使いたくないのよ。あくまで最後の切り札ってやつね」 ニコッと笑った後、彼女は立ち上がった。危うくシェイミが投げ出されかけたが、何とか無事着地したようだ。 「続きはまた今度。あまり情報を出すのは探偵としてはタブーなのよ、御免なさい」 そう言って、そのままヒラヒラと手を振って焚き火から離れてしまった。 レントもレントで大きな欠伸を一つ。……流石に限界が来たようである。 「フワァ……でも良かった、シェイミを預けて貰えるなんて……」 (そう簡単な話ならいいのだがな) 「……スイクン?」 スイクンは気がついていた。彼女はまだ何かを隠していると。というより重要なことを言っていないといった感じであろうか。 どちらにしても用心しなくてはならない。そう心で整理をし、そのまま就寝する。 「……? 変なの……」 既にシェイミもスゥスゥと眠っているので、レントもそのまま眠りについた。 〜to be continued〜 |