Episode16 「森の中心、新緑の奇跡」



リューンとシェイミはなおも道なき道を進む。リューンは尻尾の炎で辺りを燃やさないよう器用にジグザグに歩いているので、未だに辺りが大火事と言う事はない。
前に火がともっているのでシェイミは迷わずリューンについていくことができるも、やはり目の前に炎がチラついていると落ち着かないのであろう、少々顔がこわばっていた。

『……あの、リューンさんはどうやってシュンさんと出会ったんですか?』
『何でそんなこと聞くの?』
『リューンさん、なんだか必死に探しているような気がして……』

シェイミの言葉に、不意に立ち止まるリューン。急に立ち止まったので危うく火に突っ込みかけたシェイミであったが何とか踏みとどまる。
そのまま何か考え込むリューンであったが、ポツリポツリと、自分の胸の内を明かしていった。

『…… 元々は、別の人間に育てられてたんだけどね。色々あって居心地が悪くて、最近今の主人に貰われた。前の主人も……いい人ではあったけど好きにはなれなかっ た。元々一人でいることが好きだったから、それもあると思うんだけどね。だけど今の主人は、何と言うか……一緒にいると楽しいって言うか……落ち着くんだ よ。それが今の主人のいい所なんだと思う』

ふと、寂しげに笑うリューン。その自嘲めいた笑いが、リューンの今までを物語っているような……そんな感じを、シェイミに印象付けた。

『まぁ昔話はこれぐらいでいいでしょ? それに……上を見てみなよ』

シェイミが上を見ると……、何と木の上にそれこそ無数というコクーンの群れ。しかも全部がこちらに視線を向けている
思わずシェイミはリューンにしがみつく。しかもタイミングが悪く、何だがすべてがうぞうぞと動き、今にも羽化しそうな雰囲気である。これぞまさに元祖死亡フラグ。

『流石にこの数は相手できないな。走るよ!』
『え、ちょっと待って……』


二匹が駆け出すと同時に、コクーン達が徐々に輝きだし、次々と進化していく。さて、逃げきれるのだろうか……?



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苔の生えた岩に何とかもたれかかるシュン。既に限界をこえていたらしく、すぐにスゥスゥと寝息を立て始めた。
イーブイも岩に飛び乗ってみる。見た目と違って苔はとてもフサフサとしており、ヒヤッとした感触と合わさって何とも心地が良い。
まだ朝という事もあって日差しもとても柔らかいため、思わずイーブイもウトウトとしてしまう。
そのままゆったりとした時間が流れ……ふと目を覚ますと、既に日が随分と高く上がってしまっていることに気がついた。

『ふわぁ……つい眠っちゃった……』

イーブイは眠気が残る目をグシグシと擦り、大きく背中を伸ばす。パキパキと骨が鳴る音が聞こえてくるけど、あえて気にしない。
シュンは未だに夢の中であったが、幾分顔に生気が戻りつつあった。そのことに思わずホッと胸を撫で下ろすイーブイであったが、ふと自分は野生であった事を思い出し、苦笑する。

ふと、何故自分はこの人間と一緒にいるのであろうかと考える。そもそも何でこの一見バカな人間(失礼極まりない)にひっつこうと考えたのか、いまいち思い出せない。
ただ、人間の世話になるのがなんとなく嫌になり、思い切って逃げ出したがそもそもの始まりであった。あの時はちょっとした冒険心で飛び出したようなものであったが、結局人間と一緒に(無理やり)旅をしている。

自分はこうやって人と接している方が向いているのかなぁと苦笑まじりな笑いを浮かべると、不意に何か赤いものが目の前いっぱいに現れた。

『ぬわぁ!?』
『何がぬわぁだよ、というかこんなところで何ねてんの? 主人に変なことしてないだろうな』
『お、脅かすなよ……』
『……ここ、森の力が一点に集中している……』

どうやらリューンのようで、後ろにはシェイミがおっかなびっくりとしている様子が見える。
しかし二匹とも何故か擦り傷切り傷が目立っている。敵に襲われたというよりもあちこち引っかけてしまって怪我をしたというような感じであった為、イーブイは少し怪訝そうな顔を浮かべる。だがその理由はすぐに理解することとなるのは、あと数秒の話。

『……え、あのあれって……』
『逃げた方がいいけど主人を置いてくわけにはいかないからな。手伝ってもらうぞ!』



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ブゥゥゥンという羽音が、遠くから聞こえる。余りの煩さに眠気眼を無理やり開け、状況確認をしてみる。
目の前にあるのは、黄色い物体が槍のようなものを構えてこちらに一直線に突進してくるような……とそう感じた瞬間、一気にシュンの眠気が覚めるのであった。

「うひゃぁ!?」

間一髪横に逃れたと同時に突風が横を通る。あわや串刺しという状況をなんとか理解し辺りを見ると、もう何が何だか訳が分からない状況となっていた。

「なぁ!? な、なんだこりゃぁ!?」

辺り一面まっ黄色。数十匹はいるであろう両手とお尻にぶっとい針を装備した虫タイプでも凶暴な部類に入るポケモン、スピアーがもうこれでもかと言うほど辺りを飛び回っている。
正面ではリューンが炎をはいて応戦しているが、流石にこの数では体力が絶対に持たない。しかも何故かシェイミがその後ろでガタガタ震えて縮こまっている。余りの状況に頭が付いていけないが、このままでは確実にやられてしまう。

「リューン、それにシェイミもどうしてここに!?」

何とか立ち上がるも、並みの人間では歯が立たないのは明白。すぐに一匹のスピアーがこちらに向かってダブルニードルを繰り出してくる。だがそれは横から飛び出してきた茶色の毛玉……イーブイによって阻止された。
イーブイは華麗に一回転して着地すると同時に電光石火を発動、スピアー達を次々と踏んでいき、見事に空中で敵を攻撃していく。
思わず感嘆するシュンであったが一気に顔を鋭くすると、二匹に命令を出す。

「みんな一旦こっちに! イーブイは電光石火、リューンは火の粉を空に広範囲に発射して時間を稼いで!」

全員ハッとして何とかシュンのもとへ。リューンが発した火の粉はあたりをチラチラと舞いスピアー達を遠ざける。その隙を縫うようにイーブイが突進していき、次々と攻撃していく。
岩を囲むように全員が背中合わせになる。未だにチロチロと炎が舞っているのであと数秒は相手は攻撃してこない。しかしイーブイの攻撃力が低いため、相手を倒し切れていない。あまり数が減っていないのだ。
このままでは、いづれ数で押し切られてしまう。リューンもイーブイもそれは分かっているらしく、いづれ徐々に追い詰められていく事になるだろう。

スピアー達が、徐々に炎の隙を縫って近づき始める。流石のリューンも疲れが出たのか、息が荒い。あと数回しか炎を出せないかもしれない。イーブイも恐怖からか心なしか体を震わせている。
いや、心なしかではなく本当にブルブルと震わせている。瞬間、イーブイの体が光りだすと同時、突風と共に無数の木の葉が辺りを旋回し始める。スピアー達も突風に巻き込まれないよう必死に羽ばたく。

(……森の力が、流れ込んでいる)

頭に唐突に響く声。それがシェイミの声だとはまだシュンは気づいてないが、そんな呟きも今の状況ではかき消され。
やがて木の葉の旋風はイーブイを纏うように収束し、すぅっと収まった。その場にいたものは茫然とするものの、ただ一匹のみは違っていた。
体格は一回り大きくなり、茶色の毛並みはクリーム色。耳や尻尾などいたるところが植物のようになりクリンとした大きな瞳がとても特徴的であった。

「進化……リーフィア……?」

イーブイ……否、進化したリーフィアは二ッと小さく笑うと同時。大きくジャンプしたかと思うとスピアーに大きくかみつくと、そのまま空中で地面にぶん投げる。ベシャっという嫌な音を立てるスピアーに脇目を振らず、リーフィアは続けてハッパカッターで追撃していく。
効果は薄いとはいえ他と比べてもかなり威力がある葉っぱの攻撃はあっという間にスピアー達を撃墜していく。リューンも最後の力を振り絞り、あらん限りの炎で援護していく。



……その後、何とか追い払った一行は真夜中まで気絶する羽目になったのは、また別の話である。



〜to be continued〜


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