「ねぇネイティちゃん。ちょっと高い所の木の実が取りたいんだけれども、手伝ってくれない?」

真昼の草叢。獣道で張られた縄張りで餌を探していた時の事。
草食に分類されるポケモンは、基本的に餌の捕食概念が似たり寄ったりの為、種族の違いあれど、基本的に群れて生活する事になる。
なかでも雑食に分類される鳥類は、基本的に親が我が子に与えた餌を栄養源として成長するのだが、私の場合は、それが少し他の鳥類とは異なっている。

生まれ付き知能の高いエスパータイプのポケモンは、それを生んだ母親の遺伝子情報と、繁殖期に発せられる独特な精神の波長から生きる為に必要な知識を会得 し、そのまま親元を離れ、似たような餌を主要な栄養源とする野生ポケモンの群れに居座り、その群れの中で生活して行く事になる。

「ネイティちゃん、聞いてる?」

一般の鳥類ならば、大抵入るポケモンの群れは鳥類だと決まっているようなものであるが、我々ネイティのような、進化の過程で初めて飛行能力を身に付けるようなポケモンであると、陸上の生物と行動を共にしていくという事になる。
ネイティに飛行能力が無いのは、テレポートによる空間跳躍という鳥類に並外れた行動が、自身の羽を退化させてしまったのではないかと、知能指数の高い生物に見られる一部の専門家の中では推測されているようだ。

「………どこにあるの?」
「あぁ、無視されたのかと思っちゃったよ。それともエスパーポケモンにかかれば、私の頭の中なんか、一目で判っちゃうのかな?」
「………。」
「あぁ……あぁそうそう、木の実ね木の実。ほらあそこあそこ。見える距離にあるんだけど、私達木登りが下手でさ。うん、下手だからさ、ね?」
「………そう。」

話しかけて来ているのは、ここら一体を形成する中でも中級の縄張りを誇る、複数のポケモン達。

ここら一体の縄張りを与えられているポケモンには、個々の個人能力に合わせてそれぞれ、下級、中級、上級と、三段階に強さのランクが決められており、今私が相手にしている複数のポケモン達は、言う所、中級分野のポケモンに当る。
よそをどうこう言うつもりは無いが、どうにも皆で仲良くやるような軽い雰囲気の方が、この世界では良策なのではないかとたまに思えてくるのは、私がここの生活にまだ慣れを感じていないせいなのだろう。恐らくはきっと、そう。

「早く取ってよ。私達おなかペコペコなんだからね。」
「そうだよネイティちゃん。豆みたいに体の小さな君と違って、僕達は体も大きいし、とても働き者なんだよ。」
「だから早くしてくれよ。そうだな、今日は森の奥の偵察任務でいつもより働いたから、200個は落として貰わないとな。」

聴覚付きの遠千里眼の練習をしていた時に、別の箇所の縄張りを徘徊している声を見かけた事があったが、どうやらそれは今聞こえている声と似たものであったらしい。
珍しく和平的なジグザグマの群れを脅して木の実を強奪していたように見えた事が、後に悪影響を及ぼさない事を願うくらいしか出来ない、私の無力さを許して貰えるのだろうか。
それらを払い、必要な範囲にのみ意識を集中させ、念動を伝える。
200とまではいかないが、残り数30辺りまでくらいは落とせたらしい。手前、初めからこの木には、200個もの木の実は生っていないが。

「木の実だ木の実だ!」 
「おい、体格の小せえ野郎は下がってろ!先に俺が食う!」
「でかいからって生意気言いやがって!頭から食っちまうぞ!」

一般的に陸上に住まうポケモンは、餌を大量に必要とする。
高カロリーの餌を捕食するべく、わざわざ体系が太るまで待っている肉食のポケモンがいるくらいだ。
餌を大量に取った瞬間のポケモンを食べるのが一番に上手いという話を聞いた覚えがあるが、肉はあまり好きではない為よくは判らない。

「おうネイティ、お前にも一個くらいは分けてやるよ」
「………そう」
「無愛想なヤツだな。もうやらねえぞ」
「………」
「わかったよ。わかったからキレんなって。おらよっ!」

ヴンッ………

乱雑に投げたそれだが、形成された念の壁に浸かって、ゆっくりと手前に着地する。
少量の朝食で済ませておいたが、空腹時における能力のブレはあまり無いらしい。
ふと見ると木の実を投げたポケモンが、目尻に寄せたシワを此方に向けて、何やら少し汗ばんでいる。

「……ふん」

今ので五度目だが、微妙に威力が増している。
投擲練習でもしているのだろうか
 


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