夜は長い。 夜行性のポケモンが夜のうちに他の領域に踏み込んで、食料等の物品をさらいに来る事は決して珍しい事ではなく、警戒の網は昼夜留まる事を知らない…… 筈であるが、自分の訪れたこの一帯はそうではない。 鼻が効き、持久力に長けたポケモンを、5、6と高台に乗せておく程度で、その他のポケモンは、安全な近場の森で休息を取っている。 昼間に揺らした平野の木程度の細っこいものではなく、しっかりと地に根を張った、それでいて上に休まる枝のある木である。 「ネイティちゃん。今日は嫌な風が吹いているわね。」 鼻が効く事から、キキバナと呼ばれているポケモンはそう語る。 呼称であり、学名に名乗ったものではなく、群れではこういった一人一人の特徴的な呼称が多い。 無論、異端者であり、下級ランクの私に、そういった呼び名が付く事は無いが、どうでもいい話だ。 それよりも、キキバナの言う、嫌な風という言葉が引っ掛かる。 探知に影や声の反応は無く、今日はこれくらいで引き上げても問題無いだろうと頷いていた所、遮るようなこの言葉。 生憎と、体臭や実の香り等に関しては知識が無く、自信も無いもので。己に欠けている役割は、他人の情報をあてにせざるを得ない。 「……そう。」 「足も早い事だし。貴方が此方に向かう影を察知する頃には、もう森へ戻って仲間に知らせている時間は無いでしょうね。」 「………。」 恐らく嫌味ではなく、伝令の合図であろう。 だが確証は持てない。 こうした偽称により見張りを遠ざける術を知っているせいか、無意識に警戒を起こしてしまう。 慌てて伝達に向かう素振りの前に、落ち着いた態度でいた方が、本意を探れるやもしれない。 暮らしの仲間だからと言う理由で信用を置いてはならないが、信頼が無ければやっていけない事にも遭遇する時が必ず来る。 ややこしい話である。 「………。」 「私が伝達に向かうから、貴方はここで、奴らの様子を見張っておいて。」 「……わかった。」 答えると、キキバナは短い四足で駆けて行く。 さてどうしたものか。 自慢の鼻先で得た情報を連中へと伝達するならば、においによる情報の内容を的確に判っているキキバナの方が、今は適役ではある。 嫌な予感だのはこの際置いといて、ここはキキバナの言う通りにしておいた方が良いのかもしれない。 「……?」 まて、そう言えばそうだ。 キキバナは何故、この草叢に私を放置したのか。 何故私に、向かってくる奴らの様子を見張らせる必要があったのか。 このまま私がここで奴らを見張っていたとして、伝達の役割は彼女が済ませてしまっている為、私が向かってくる奴らを眺めている必要は一切無い。 もし役割があるとすれば、そう、囮だ。 恐らく、警戒か逃走までの時間を稼げと頼まれているのだろう。 対処の力はある。逃げ惑う素振りも、撹乱も可能。 問題はそう、敵が来るか来ないか、それだけの話だ。 |