暁はまだ遠い。
中央に迫るにつれ、周囲を包む眼光が威力を増している。

「小鳥さん知ってる。ポケモンって、実は人間とお話が出来るのよ?」

普通に口にしたのなら頭を疑われそうな言葉ではあるが、先の一部始終を目撃していた此方の身からすれば、何も特別な事ではない。
何故助けられたポケモン達は、彼女に心を許したのであろうか。
驚いた拍子に口を割ってしまったと、ただそれだけの理由では無いような、不思議とそんな気がしてくる。

「実はね、この間私見ちゃったんだ。南の森にいるジグザグマさんと……。」

そう、隣の森にいるジグザグマは比較的温和で人間とも……て、なんだって?

「ジグザグマさんと剣士さんがこっそりお話しているの、私聞いちゃったの。」

剣士と言うと、先頭を切っていたあの剣士であろうか。彼女と親しそうに話していた所から見て、まず間違いは無いだろう。
アリエッタは続ける。

「ジグザグマさん、剣士さんに頼んでたわ。この森にいる乱暴なポケモンさん達を、剣士さん達の力で少しこらしめて欲しいって。」

それが何時頃の話だとしても、あの剣士達がこの地に向かってきた理由は、恐らくそれである。
彼らが騎乗していたポケモンは、確か炎を操る系統のものであり、要望が何であれ、叶わねば焼き払おうと脅しをかけようものであれば、通らない問答も融通が効く。
じゃあ彼女は、内部工作でもしに来ているのであろうか。
仮に大事にしていたポケモンを逃がしに来たのだとしても、先程の行動からして妙である。
同情を買うと、それだけの行動であるのだとすれば、厳格な彼ら虫がその口を開ける事も無かった事であろう。
とすれば答えは一つ。
彼女が剣士達と行動を共にしていたのは、あくまで移動手段の為であり、その理由や目的は決して、同じものではないという事である。

「貴方達のルールは、やられたらやり返すと、そう決まっているものなのかしら。」

手前の一件に限らず、ジグザグマ達はこれまで、微弱というだけで幾重もの仕打ちを受けてきた。
当然と言えば当然なのだろうが、何もわざわざそこに、人間を巻き込む必要は無いのではないか。

「……ごめんなさい。急がなくちゃね。」

悠長な事を言っている暇は無い。
事の成功を誓い、一層に足を速めた。



「通達です。」

中央付近。大木に立つ従者が、伝令の記載代わりに、暗号のようなものが描かれた葉に目を通し、言う。

「念動力に独特の耐性を持つ絡め糸である筈なのに、こうも簡単に通過されるとは。統括者のアリアドスは何をやっていた。」

「……ここに。」

伝達者の後ろより無い肩をすくませて現れたのは、従者によって先刻発令された命により、中央付近の森一帯にイトマルの軍勢を配置させた、その統括者である蜘蛛の長。

「どういうつもりだ。」
「どういうつもりもなにも、従者さん。あれにはどうにも、手の出せる連中ではありませんよ。」

蜘蛛は何やら、申し訳無さそうな顔を前にも後ろにも浮かべ、目的の対象に危害が無い事を言い渡すが、従者の顔は変わらない。

「人間に悪いも何も無い。違法者にもな。残念だよ。お前はもっと常識ある者だと思っていたのだが……。」
「なにも加担という意味ではなく、我らが秩序の為を思って言っておるのです。そう言った偏見で辺りを見る前に、まず彼らに話を……。」
「違法者に加担するか。最早話を聞く気も起きぬわ。つまみ出せ。」

従者が言うと、後方より出でた鎌の手が迫り、それが蜘蛛の首へとかかった。。

「お待ち下さい!彼らが一体何をしたと言うのです!少しだけでも、彼らに触れて……話を!」
「規定を守らない者の言う事など、糞の吐く妄言に過ぎぬ。おい、とっととこの愚か者をつまみ出さんか!」

言う間に、彼の首にかかった鎌が解かれた。従者の指示によるものではなく、アリアドスの放った糸による攻撃をかわす為である。
彼らに絡まった糸が解かれる前に、アリアドスは宵闇に広がる木を器用に使い、森の奥へと逃げ去った。

「定めた既定も守れぬ者の神経などマトモなものではないのだという事を、奴らの屍に刻み込んでくれる。」


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