段々と気配の強度が増している気がする。
他族の文学で言う所、気が滅入るという状態に陥っているのか。
先程までのルートは彼女のカンを頼りに通ってきたものであった為、先行きに不安が有る事は隠せないが、それにしても、ここら一帯の気配の量は決して気のせいなどではない。
これは明らかに囲まれている。それも中級か、それ相応の力を持った者達が。

「もし危なくなったら、その時はお願いね、小鳥さん。」

正直、この森で今迄に目にしたポケモンは中級クラスか下級の同胞らくらいの者のみである。
先程に散々落としていた蜘蛛の軍勢を構成するイトマルも、それを裏で纏めているアリアドスの長の顔も見覚えはあった。
彼の目は広い。出来る事なら力を借りたいが、先に助けた連中の事を考えると、そうはいかないように思えてくる。
居所を悪くしていなければ良いのだが。と、探査に何かが引っ掛かった。
覚えがある個体がいくつかと、見覚えの無い、これは恐らく上級のポケモンであろう。
先程まで寝ていた筈の、そう、ここぞとばかりに木の実を強請りに来る、あの者達だ。

「あら、どうしたの?」

立ち止まって、再び確認する。
周囲を囲まれ、正面に迫るのは上級ポケモン一体。
これを避けて戦力の低い所を抜け包囲を掻い潜ろうと、筆頭となった上級ポケモンが再び中央を旋回し、その道を塞ぐ為の囲いを再び周囲に形成する。
要は花弁のような陣であり、その花弁の一つの中に、私達は閉じ込められているという事になる。
キキバナの位置はここより更に中央。最短ルートを、上級ポケモンが塞いでいるという現状だ。
だが陣形を崩そうと辺りを旋回すれば、時間と共に体力を奪われる事となる。
まずはそう、その上級ポケモンのデータを取る必要がある。
データを取ってどうするのかと、手段は一つしかない。
筆頭であるそいつを叩く。話はそれからだ。



「超能力のようなものは備わっちゃいねえが、伝達力と数で攻めれば此方が有利。捕まるのは時間の問題って訳よ。」

この森の中央は、幾重もの根が形成する台により、少し高く膨れ上がった土地の上に存在している。
包囲を抜けようと、この高台の上に登って来る間の浪費した時が、同時に回りこむ時を稼いでくれる。
彼奴らが中央に迫っている事は、捕獲に当てていた蜘蛛達の倒れていたルートが示している。
間違い無く目標は中央に向かっており、そして間違い無く、我らが捕まえる事となる。
この森に来る前に、我が主人の元で慣らした統括の術が、こんな退屈な森で役に立つとは思ってもみなかった。

「司令、北東包囲より報告が。」
「慣れねぇ名で呼ぶもんじゃねえよ。まぁでも、気分が出るに越した事ねえか。こういう状況にも慣れてねえもんだからな。うあっはっは。」
「ではラージ司令。目標がここより正面を通過し、此方へと向かっていると報告がありました。」
「なに?そりゃどういう事だ。まさかこの俺と、正面からやり合うってぇ策に出たんじゃねぇだろうな。んん?」

基本的に上級ポケモン内部での抗争や揉め事は、既定事項により硬く禁止されている為、これまでにその力を奮う事が許されてきたのは、中級ポケモンの仲裁に当る時くらいのものであった。
その為、好戦的な連中とは馬が合う事も多く、今回の包囲に関しても、思ったより手早い対応を取る事が出来た。
しかし何の偶然か、今此方に向かって来ているのは、一種が戦闘を好む中級ポケモンでも、既定の硬い上級のポケモンでもない。
他ならぬ、新参者の下級のポケモンである。

「そのようです。包囲に気付いているのか、それともただ最短のルートを直線に進んでいるのか……。」
「どっちでもいいぜ。俺とやり合う奴が真っ向に参上し、しかもソイツはどうにも、上連中の理不尽さに逆らった事を承知で、ここまで駆けて来ているようだ。なんとも俺と気が合いそうじゃねえか。」

無論、一戦交える覚悟で挑んだ包囲だが、まさか一番無難で判り易い方法に出て来るとは思ってもみなかった。
下級の連中はどれも皆上の言う事を聞いてばかりの、地味で冴えない連中ばかりであると思っていた為、何かその者には、内から込み上げるものがあった。

「だが俺は動かん。何故なら、俺自らの行動で包囲を崩す訳にはいかねえからだ!」
「ラージ司令が目標に向かわれると困ります。司令の髭レーダー範囲の外を回られては、目標を見失ってしまう事でしょう。」

髭とヒレによるレーダー機能。何メートルかの察知は効くものの、さすがに超能力相手であると自身の程は薄れてくる。
しかもこれは空気による振動を察知する為のものだからして、万が一風でも起こされたのであればたまったものではない。

「その通り。だが今にでも駆け出したい。ああ駆け出したいね。お前俺の変わりに、ヤツの所へ駆け出してこねえか。」
「なりません。」
「なんでだ。」

伝令に来たのであれば、持ち場に戻るのが筋である。
持ち場がどうこうの問題は、何も自分に限った事ではない。
それならば、何か用が出来たとでも言うのであろうか。

「見張りです。」
「……誰のだ。」
「ご冗談を。」
「……。」

早々に来て貰いたい。これでは此方の身が持たなさそうだ。


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