第一六話(間話ノ壱)『白く赤かった日々――その壱』

[死合終了(ゲームオーバー)ッ! 勝者ッ! Valkyrie!!]

遥か上から注ぐ照明が眩しい。
スピーカーから響くひびわれた声とそれをかき消すまわりのたくさんの声。それに混じるのは怒り。歓喜。陶酔。悲哀。言葉だけは入力済みで(知っていて)意味は理解できない『感情』の渦。
オレが今いるのはカントー地方のタマムシシティというらしい。その地下闘技場。コンクリートで出来た床と有刺鉄線で囲われた戦闘場の中心。人間と人間、ポケモンとポケモン、そして人間とポケモンが殺しあう。そんな閉じた空間。オレが知る唯一の外。
そこにオレは白い仮面を付け、白い服を着て、白い靴を履いて立っている。
左手にはナイフ。刃に残るのは赤い液体。身体に残るのは肉を切り裂く固いようでやわらかい感触。手首には薄紅色の細い鎖が巻かれ。
右手には拳銃。残る弾は無く。身体に残るのは引き金を引いた後に来る衝撃による痺れ。手首には薄紅色の細い鎖が巻かれ。
首には銀色の識別表。
空気はアルコールやタバコ、汗、鉄サビなどのにおいが混じった刺激臭。
隣には黄色と黒の縞模様の体。背の四枚の薄い羽根を高速で動かし宙に浮かぶポケモン――ビークイン。
目の前には暗くて赤い液体にひたるつい先ほどまで生きていた、男。だったもの。
その隣には同じく赤く暗い液体の中に横たわる白い獣。ペルシアン――と呼ばれるポケモン。だったもの。
今回のルールはポケモン一、人間一。武器は制限なし。階級(クラス)はB。勝敗はトレーナーの生死。
能力(チカラ)を使うのは禁止されている。だがオレは勝った。身体能力とビークインの力のみで。生きているのがその証。
身に纏った白い服。それが裂け赤く滲もうとも袖から赤い液体が伝わって来ようとも痛みで意識が朦朧としていても、黄と黒の体に切り傷が多数あろうともオレたちは生きている。



「ノルマ終了だ。戻るゾ成功体其の二(ヴァルキリー)。五分で終わらセろ」

控え室に戻ったオレにそう言うのは、全身を白い服で覆った男。
一ヶ月の半分、一五日ほどをオレは此処で過ごす。今日はその最終日。カントーからシンオウへと移動する日。
傷を消毒し包帯を巻き、ビークインの傷の治療もしながらオレは頷く。
白に僅かな赤い線の入った球体――プレミアボール――に入った大きな翼を持つ紫色のポケモン――クロバット――に、「よろしく」と呟きながら。

 


戻る                                                       >>間章へ

 

inserted by FC2 system