第26話 頼まれ事




ポケモンセンターの中に入ると、すぐ目の前に受付があった。若い男がカウンター越しに立っている。
レイルは男の前まで歩いていき、すみませんと声を掛けた。
「何でしょうか?」
微笑みをたたえたまま男は聞き返した。いわゆる営業用スマイルというやつだろう。
「今晩泊まりたいんですけど、部屋空いてますか? あ……明日の朝には出発します」
「何名様でしょう?」
「えっと……二人です」
本来ならば、レイルとリーフは別々になるはずだったが、リスタにいたときのように一緒にいたかったのだ。
「かしこまりました、では鍵をお渡しします」
男は別に不思議がることもなく、カウンターの奥から鍵を取り出してきた。
ポケモンと一緒に泊まる客も、そうめずらしくはないことなのだろう。
「鍵に書いてある番号の部屋に行ってください。部屋はあちらの方向です」
レイルに鍵を手渡すと、向かって右手の通路を指さした。
鍵には番号の書かれた札が紐で結んであった。bRと書かれている。
「その鍵は大切ですので、くれぐれもなくさないでくださいね」
忠告するように言う男に、レイルは分かりましたと答える。
「三号室か……行こう、リーフ」
「うん」

通路に差し掛かると、その両側には各部屋のドアがいくつも並んでいた。
ちょうどレイルの目の高さくらいの位置に、番号が見える。
「ここだな」
3と書かれた部屋は割とすぐに見つかった。
どうやら、入り口に近い方から順に1から番号がついているようだ。レイルはドアを開け、中に入った。

部屋の中はそれほど広くはなかったが、二人でくつろぐには十分な広さだった。
ベッドが二つ等間隔で並んでいて、中央には机があった。
「へー、結構広いんだね」
「今はこの部屋に用はないんだけど、一応確認はしとこうと思ってね」
レイルはくまなく部屋を見渡す。ポケモンセンターに泊まるのは初めてだったが、
「他に用事があるの?」
「姉さんにお土産頼まれてるし……それにお腹減ってないか?」
そういえば夕食がまだだった。今まで忘れていたが、思い出すと急に空腹が気になり始めた。
「街にある店で何か食べよう。お金はちゃんと持ってきてるから」
「うん、行こう!」
リーフは嬉しそうにドアの外に出た。初めて行く店なので、楽しみなのだろう。
レイルもそれに続くとドアに鍵を掛けると、ポケモンセンターを後にした。リーフほど浮かれてはなかったが、実を言えばちょっと楽しみにはしていたのだ。




「ああ、お腹一杯だ」
「僕も」
ラゾンの街の中央通り。そこに隣接する一つの店から二人は出てきた。
料理の店はいくつもあったのだが、いかにも高級そうな店は避けた。
お金はそれなりに用意していたものの、食事の代金がどのくらいなのか見当がつかなかった。もし払えなかったら困るため、普通そうな店を選んだのだ。
「あんな料理食べたの初めてだったよ」
「うん、でも美味しかったなあ」
店の選択に間違いはなかったらしく、どの料理も持ち合わせのお金で食べられる範囲だった。
しかし、外で食事をするのが初めてだったため、どれにしていいのか決めかねていた。
すると本日のオススメとやらを店員に言われ、それにして食べてきたというわけだった。
「さてと、お腹もふくれたことだし……あとは姉さんに頼まれたお土産だけだな」
「でもお店はたくさんあるよ。どこで買うの?」
ここは多くの店が建ち並ぶ中央通り。全ての店を回ることなど出来そうにもない。
「そうだな……どうするか」
「セリアさんは何を買ってきてって言ってたっけ?」
「特に物の指定はされなかった。何でもいいって……その方がかえって困るんだよなあ」
「あ、そうだったね。さすがセリアさん、アバウトな注文だ」
リーフは納得したように頷いてそう言った。
自分もその場にいたはずなのだが、意識して聞いていなかったため忘れていたのだ。
「まずは何を買うかが問題だなあ……」
決められた指定がないのだから、その分自分の判断が重要になってくる。
もし買っていった物が気に入られなかったとしても、ちゃんと何を買うか言わなかったセリアが悪いのだが。
彼女のことだ。そんなことは関係無しに怒るであろう。
レイルは周辺の店をじっくりと見回した。普通の商店らしき店や、何かの専門店と思わせる店もあった。
外見だけでは判断しかねるが、入ってみて何も買わずに出ていくのも気まずい。さて、どうしたものかと考えていると、ある一つの店がレイルの目にとまった。
隣の大きな建物の影に隠れてしまいそうだったが、小さな店のような建物が見えた。
「大がかりな店よりも、ああいったこぢんまりとした店の方が意外といい物が売ってるかも知れない。行ってみよう」
レイルはリーフと一緒にそこへ向かった。まだまだ人通りはあったので、はぐれないように気をつけけながら。

近くまで来ると、どことなく不思議な感じのする店だった。建物は薄い紫がかった色で塗られていて、怪しさが出ている。
両隣が大きい建物に挟まれていて、ぼんやりしていては気づかないほど目立たない建物だった。
「……レイル、ホントにここに入るの? なんか危ない感じがするんだけど」
リーフが店の外観を見て率直な感想を述べた。それはレイルも同感だったが、店に立てかけられてある看板が気になっていた。
文字が薄く、はっきりとは読めなかったが確かにこう書かれてあった。

『アクセサリもあります』

お世辞にも丁寧とは言えない字だったが、見えやすいように黄色で書かれていた。
「アクセサリだったら、姉さんも文句言わないと思うんだ」
「……まあ、そうかもしれないけど」
リーフは言葉を濁した。普段家に籠もって実験ばかりしているセリアに、アクセサリを身につける機会があるようには思えなかったのだが。
かといって他にどんな物がいいのか聞かれても困るので、黙っていた。ここはレイルに任せようと思う。
「さ、入ってみよう」
そんなリーフの心を知ってか知らずか、レイルは入る気満々で店の暖簾をくぐっていった。
若干不本意そうな顔をしながらも、リーフはその後に続いた。


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