Episode6 「和解と覚悟と信念と」



コダマタウン内にある施設の一つ、ポケモンセンター。どんなに小さな町にも必ず一つはあるともいえる施設で、傷ついたポケモンの治療や、旅のトレーナーに質素ながらもちゃんとした宿を提供する、まさにポケモントレーナーなら誰もがお世話になる場所である。
ここではジョーイさんという人が、総合的な管理を任されている。……このジョーイさん、各町のセンターごとに必ず一人常在しており、顔も背格好もほぼ一緒と言う何とも奇妙奇天烈な人たちなのだ。
噂では、この世にはジョーイさん一族という一家があり、全員親戚関係にあるとかないとか……。――真偽は定かではない。

結局何とかリューンに新種のポケモン(シェイミ)を持ってもらい、夕方頃になってようやく街に戻ってきたシュンは、助手であるラッキーに新種のポケモン(シェイミ)を手渡す。この時既に、新種のポケモン(シェイミ)は安心したのだろうか、既に眠ってしまっていた。
ラッキーは馴れた手つきでそっとベッドに寝かせ、そそくさと奥にあるトビラへと入っていく。恐らく治療用の機械がある部屋へと連れて行ったのだろう。

「君、あの子をどこで見つけたの?」
さらに不機嫌になったリューンに礼を言ってボールに戻そうとするシュンに、ジョーイさんが話しかける。
ジョーイさんに経緯を説明すると、ジョーイさんは何故か考え込むような仕草をとる。シュンが不思議そうな顔をすると、ジョーイさんが神妙な面持ちで説明する。
「あの子はシェイミという名前のポケモンなのよ。滅多に人前には出ないポケモンで、この地方では花と風の妖精とも言われている珍しいポケモンなの。怪我はないけど極端に疲れていたから……ひょっとしたら、誰かに追われていたのかも」
「追われていた? ……あのちっさなポケモンが?」
「とても珍しいから、ひょっとしたら心ないハンターに追われていたのかも知れない。……詳しくは分からないわ」
ジョーイさんの言葉に、思わずシュンは視線をシェイミがいる治療室のドアへと向ける。リューンも厳しい表情のままであった。


――そんな様子を、窓から覗く影が一つ。気配を察したのかリューンが睨みをきかすも、既にそこには誰もいなかった。


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マサゴタウンのビルの隙間にある裏道。そこにあの暴力怪力鬼娘(爆笑)、リルアの姿が。しかしその容姿はガラリと変わっている。
まず髪や顔などの泥は綺麗さっぱり洗い流されており、本来の綺麗な色合いとなっている。加えて服装も変わっており、かなり年季の入ったようなTシャツに金 のギャラドスの刺繍が入った紫色のスカジャン。ボロッボロのジーパンと腰には小物を入れるにしては少し大きめのバックをつけ、壁に背をあて誰かの話を聞い ているかのように、時折頷いていた。……いやいや、一応女の子なんだからもうちょっと……ねぇ。
そんなナレーターの嘆きも露知らず。リルアはゆっくりと目を開けると、口に手を添えブツブツと呟き始める。

「シェイミはポケモンセンターに……か。厄介だけどまぁいいわ、それはそれで安全ね」

独り言であろうその台詞――それにしては少々大きい声であるが、そんなことお構いなしに彼女は話し続ける。

「問題はあの子、レンって言ってたわね……。あんな奴がいるなんて聞いてない……それに何故スイクンが進んで協力しているか……? いずれにしても、あのシェイミにはちゃんと挨拶しないといけないわね。何故なら――」
次の瞬間、驚愕の言葉を口にする。
「――何としてでも、あの子を護り抜かないといけないから…ね」

――僅かな微風が、彼女の体をスウッと撫でていった……。


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……コトブキシティから随分と離れた、テンガン山の麓(ふもと)。そこであのレンという少年が、キャンプの準備をしているところであった。
ドクロッグが集めてきた薪に何とか火を付け、ようやく一息ついたところで彼が見たのは――離れた場所で、夕暮れが迫る太陽を見ている、スイクンであった。
――彼は小さく俯いた後、少しだけ近づいて話しかける。……無論、返事が返ってくるとは思っていないが。

「ねぇスイクン。……今日は、御免なさい。僕のせいで、せっかく見つけたシェイミを……」
スイクンは何も答えない。
「……もう邪魔はしないから、スイクンは一匹だけで」
その瞬間、レンの足もとの地面に、亀裂が走る。驚いたレンを見ることもなく、スイクンは淡々と語り始める。
(それ以上は、言わせぬぞ。貴様、何のためにこんな極寒の地まで来たのか……言えない筈はないな?)
感情がなく、しかしどこか憤怒の込められたような口調に、思わずレンはゴクリと唾を飲む。
(あの日、貴様は涙ながらに語ったな。……どんなに私が貴様と、貴様の相棒を傷つけても、だ。あの日の言葉は嘘だったのか?)
「……それは」
(二度と、そのような泣き言は言わぬ事だ。次はその体、両断させてもらうぞ)

そのまま、スイクンは一言も言葉を発することがなくなった。レンは溢れる涙を噛み殺し、焚き火のところへと戻るのであった。

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――そして、翌日。朝日が昇る中、シュンは眠気眼でセンターの食堂へと歩いて行く。……ちなみに、リューンは現在センターにて預かってもらっている。
とそんなとき、ラッキーが急ぎ足(と言うほど早くもないが…)でこちらへ来るのが見える。…しかしシュンは、まだ頭が覚醒していないらしく、その事に気づいていないが。
『ラッキ、ラキラッキ!』
「んぁ〜? あれリューン、何でここに……」
完全に心ここにあらず。そう直感したらしいラッキーは、あろうことかお腹にある卵を取り出し、それでシュンの頭を思い切りどつく!
「はがゅ!?」
何とも形容しがたい声を出し、シュンはそのまま二度目の眠りにつく。ヨシッと大きく頷いたラッキーは、ヒビ一つ入っていない卵を元に戻し、そのまま彼を引きずりつつ奥へと続く扉へと入っていくのであった。
「……ん、んん…?」
ようやく目が覚めたシュンは、疼く頭を抑えつつ――その事に若干デジャヴを感じつつ――辺りを見回してみる。
どうやらセンター奥の、治療室の中のようである。ラッキーが指さす方を見るとそこにいたのは、あのシェイミであった。
既に目を覚ましており、周りの機械類に若干戸惑ってはいるがもう立ち上がれるほどには回復している。ただ右前足にはまだ包帯が巻かれており、歩きにくそうにはしているが。
「良かった、元気になったんだ! ていうかラッキーさん、もうちょっと優しく連れてきてもらいたかったと言うか……」
『ラキ、ラッキー』
何言ってんだかというような冷めた口調のラッキーに若干苦笑しつつ、シュンはシェイミに近づいてみる。昨日よりかはマシにはなっているが、それでもまだ警戒しているらしくオドオドとしているといった感じだ。
シュンはかがんでシェイミと目線を合わせる。それだけでもシェイミはビクッと体を強張らせるが、それでも目を逸らさないだけまだマシであった。

「自己紹介するよ。俺はシュンって言うんだ、風蔵シュン。…君は、シェイミって名前なんだよね?」
オドオドしつつも、シェイミはコクリと頷く。それだけでシュンはニッと笑顔になる。
「へへ、俺お前みたいなポケモン初めて見たからさぁ……なんだか嬉しくって。もう疲れは取れたのか? 野生に帰っても大丈夫?」
そう聞くも、シェイミはフルフルと首を横に振る。確かに右前足は未だ怪我をしているので、このまま野生に戻したらグラエナのような肉食ポケモンに狙われかねない。
シュンもそれは分かってはいたが、念のため聞いてみただけだ。
「そっか。じゃあ俺そろそろ戻るけど……また会いに来ていいかな?」
そう聞くと、シェイミは悩むように顔を俯かせるも、小さく、本当に小さくだが、コクンと頷いた。
「よっしゃ! じゃあ今度はリューンも連れてくるね。あ、リューンって言うのは君をここまで抱えてくれたヒトカゲのことで……っていいか、そんなこと。じゃ、またね!」
『ラキ!? ラ、ラッキー!』
ニッコリと笑いながら、ドタドタと騒がしく出て行くシュン。無論そんなことをラッキーが許すはずがなく、遠くから何かが何かに命中する音が聞こえてきた。
そんなドタバタ風景に一人残されてしまう形となったシェイミの顔は……心なしかホッとしたような、そんな雰囲気であったとか。

 

 

〜to be continued〜


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