「止まれ。」

そう告げたのは、隊列を組む集団の先頭、やつれた男。
足の早さは、その者の力ではない。
男達が操る、長足の身が放つにおいは、同胞のものではないにせよ、その格好は、私達のそれとよく似ている。

「鳥……ネイティか。」

騎乗行為は、私達の中でもたまに使う者がいる。
確か大型の鳥ポケモンに関しては、運び屋なんていう仕事があるくらいで、需要も大きい。
その騎馬はくつわを嵌められているが、話す事くらいは出来るのであろうか。
自動移動車を使えばいいものを、珍しくポケモンを移動手段に使っている人間の事だ。恐らくは、その点を考える者がいてもおかしくはない。

「我が名は剣士。とある調査の為、この先の森に用がある。」

使者か何かと勘違いされている所を見ると、あの森は、過去に人間の手が付いた形跡が無いと見るべきだろうか。
人間と言語を語る術を持つ者は多いにせよ、同時に、相応の強さを持つものでなければ、その能力を人の前で扱う事は無い。
何故か、決まっている。
人間はそういった、経験に無い珍しいものが大好物であるからだ。
それに対抗出来る力を合わせ持たぬ者は、力の服従に打ち伏せられる事になろう。

「ここを通して頂きたい。」

勝手に通ればいい。そう思ったものの、そう、知っているのだろう、私の特徴を。
他者を知る事こそ、己を知る糧となろう。この理念も、人の文化にはあった筈だ。
だが同時に、彼らは科学技術で向かって来るような連中には見えない。
では調査とは一体何の事か。

「ううん、弱ったなぁ。」
「……。」

私に与えられた役目は、奴らを撹乱し、森から遠ざけるか時間を稼ぐかする事。
その為には、彼らが私達の生活に害を成すものであるのかを、確認する必要がある訳だ。
話さずして、何を知ろう。
語らずして、何を判ろう。
とは言うものの、此方の状況を知られる訳もいかない。
どうしたものかと疑問を浮かべてすぐ、男の後方より、これまた騎乗した人間の女が現れた。

「こんばんは小鳥さん。少しおはなしする?」
「アリエッタ。このネイティは駄目だ。きっと人間の言葉が判っていない。」
「あら?貴方も剣士として名乗り出たのだから、飽きに走る前に、相応に相手をするべきではなくて?」
「……やれやれ仕方ない。お前ら。今日はここいらで休憩だ。警戒に当る連中は、まず俺の所で来て確認を取れ。」
『エッサ!』

聞いた事もない掛け声と共に、彼らは今宵の暖を取り始めたようだ。
雰囲気も明るい。何より統率がとれている。本気で攻め込まれたら勝ち目は無さそうだと、心中でほくそえんでいた。


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