「うはははは。久々の前線にしちゃあちぃと地味だが……まあいい、十分だ。」

吐きながら、弾道は流れている。
ラグラージが好戦的な性格であるのなら、回避に専念さえすれば、向こうにも攻撃の疲労が溜まり、体力的には此方が有利になると思われたのだが、甘かった。
ヤツは今、本気を出しているようには到底見えないばかりか、疲労による疲れも全く見えない。
高度な技量を必要とする技の類には、その使用にも限りがあり、回数のようなものが決まっている。
だがラグラージは、その不可思議を必要とする『技』すら使っていない。
ただ地面の土を平たい腕で掻き、此方に打ち付けてきているだけの行動により、あろう事か此方の体力が奪われている。
だがやはりそれも、運動で避けきれる程度のものである。そろそろ留めに入るタイミングであるが……。

「さぁて、ここからが本番だ!」

それを言うと、ラグラージは頭上に手をクロスさせ、そして次の瞬間、そこから水のようなものが溢れ出し、薄い水の膜が両手を覆った。

「いくぜぇ……!」

直後、踏み込んだ。次の瞬間、何かが来る。
足で避け切れるものであれば横に飛び、そうでなければ……。

「でやあっ!」

クロスになった腕が滑るように開かれ、重なった手の合間から、水流が一本、槍のように飛び出して来た。
尋常ではない早さでそれは迫る。だがこの距離であれば、避け切れるのに大した時間は、

「かかったな!」
「……っ!?」

瞬間、何が起きたのかにも気付かず、割れるような衝撃に全身が揺さぶられた。
攻撃が直撃したのだ。両手刀より放たれた水の槍による、正面からの直撃を喰らった。
水による遠距離攻撃ではあるが、衝撃は打撃のそれと似ている。
衝撃によってモロに頭が揺さぶられ、無防備にも倒れてしまった。
経験に無い技の特性に動揺している場合ではない。それよりも、
何故今、向かってきたそれを避けきれなかったのか。
ふと足元に目をやると、ラグラージがそれを言う前に頭が理解していた。

「そう、さっきの土撒きは、この一撃を命中させる為に仕組んだもの。」

気が付くと周囲に、固い土であった地面がもう見えない程のぬかるみに包まれている。
そして土を撒いてすぐに固まった足元の地面が、完全に私が移動する自由を奪っている。
もう少し丈夫な足であれば抜け出せる事も可能であったのだが、鳥の歩行能力にこの足場は分が悪い。
迂闊だった。あれを撒く直前にも、手に水を染み込ませる能力を使っていたのだ。
もう少し集中力があったのならば、その動作に気付いていたのかもしれないが、先程の自分にはそれが欠けていたらしい。
動揺しているのか。あんな少し前に出会ったような女の事で。

「………。」

今度こそ考えを働かせる。
アリエッタは先程の時点で、わざわざ私を裏切る必要があったのか。

「そのナリじゃ大した飛行能力もねえ筈。足を封じられたリスクは……でけぇぜ!」

ラグラージは腕をクロスさせる。
私はアリエッタが会話を行う前、その上級ポケモンが、分類がぬまうおポケモンのラグラージであるという事について、まだ気付いてはいなかった。

「留めの一撃だ……とびっきりの一撃をくれてやる。」

そしてラグラージは、何故横目でアリエッタを見逃したのか。
面倒を嫌いそうな性格である。ならばアリエッタを見逃したのは、自らにかかる手間を省く為だとすれば……もしや。

「どうせここでお前を叩いても、別に大した事じゃねえが、散々避けられたコッチとしちゃあ、ウサ晴らしがしてえのよ!」

見上げると、アリエッタが木を登っている。違う、そこじゃない。
もう少し上の……上で何か、何かが……。

「さぁっ……くらいやがれ!」

ラグラージが腕を滑らせる。
その水槍の発射音が、同時に余計な感覚を飛ばしていく。
巨体を捻じ伏せるには、十分すぎる程に研ぎ澄まされた感覚。
急速に練られた念力による移動の直後、思っても見なかった能力に虚を付かれたラグラージ。
だがすぐその存在に気が付く事だ。
自らの後方より迫る、高速で移動した私自身の存在に。

「ケツにっ……!」

振り返りながら、そのまま後方へと顔面裏拳の態勢に入る。
だが強力な一撃である筈の攻撃は、薙いだ翼の一撃によって止められ、なんとそのまま、顔面に一撃を押し返される。

「ごっ……おあっあ……―!」

予想外の一撃により、声にならない声を上げるラグラージ。
その後、再び翼による一撃が脳天を直撃。
そしてそのまま沈むように、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。


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