それぞれの考えにも区切りが付き、事は丸く収まるかのように見えた。
ただ教授と呼ばれる者だけが、渋い顔でなにかを考え込むようにして、後方に注意を逸らしている。

「ネイティ君と言ったか……少し、宜しいかね。」
――?

教授と呼ばれる者にとって、それは計算外の事であったのだろうか。
現状、こうなる事を予測し切れなかったというような顔で、教授と呼ばれる者は、それをネイティに告げた。

「もし君が我々よりも後に脱出すると言うのならば、そこに転がっている者に注意しろ……そいつは……。」

――……え?

「いや……君ならなんとかしてくれる筈だ。炎に立ち向かい、三つ首を理解した君ならば……あるいは……。」

それ以上の言葉を躊躇ったせいか、教授と呼ばれる者の未練がそこで費えたのか、その者も、光に包まれて消えていった。

「……なんだか偉くアッサリした脱出で、ちょっと怖くなってきたよ。」

――あんまり躊躇った考えを持つと、遠くへ飛ばせないからね。

「ねぇネイティ、僕がどうやって森の中に進入したか聞きたいかい?」

――別にどうでもいいけど、早く脱出しないと、私のエネルギーが木々に吸収されて脱出出来なくなるかもよ?

「まぁちょっと聞いてよ。僕は教授の命令を受けて、某国から脱出を計ったロックとアリエッタを、アリエッタの命令でこの森まで運ぶ事になっていた、旅の一団の仲間に紛れてポニータのフリをしていたんだよ。」

――……え?

「ああそうだよ。君がナイトヘッドを放った中に、僕もいたよ。あれはちょっと痛かったな。もっと早く進入するつもりが、かなり予定を狂わされた。まぁそれは、今となってはどうでもいい事なんだけどね。」

ネイティは思い返していた。
あの事実は、恐らくネイティしか知らないだろう。
ネイティの中に、憎しみや怒りが渦巻いた一時。幻覚を使って苦しめる技の為、肉体的ダメージはそれほど無かったのだろうが、あれは自分からしてみても、自分の中の凶悪な一面であると、ネイティはそう思っていた。
三つ首の思念に付け込まれたのも、丁度あの後の出来事であった。

「そこのロックとかいう男。彼自体は気の優しいただの人間さ。教授が城の中で、コッソリ一般兵の一人に開発中の薬を投与したのが原因で、ここまで連れて来られる事になっちゃったんだから、当人も随分苦労者だよね。」

それらの事情をこの場でネイティに話すという事は、どういう事なのだろうか。
下手に動揺すれば、転送の位置がズレてしまう事はメタルモンスターにも判っている筈なのに、それでもあえて、伝えたい事があるというのだろうか。

「一団は森に向かう途中で、ある宝を求めて山に立ち寄ったんだ。無論、これも教授の策略さ。そこでロック君が手に入れたものに、教授は用があったんだからね。全く、あの人のおかげで、随分と悲惨な目にあってるねこの男は。」

先程、教授が手にした剣が燃え盛るのを、ネイティはその目で見ていた。
少し前、赤黒い炎に包まれていたロックの、その背後にあった剣。

「赤き華、フランベルジュ。それがあの剣の名前さ。その仕組みは至って単純。柄のモンスターボールから発せられた中にいるポケモンの力が剣に浸透し、その力は燃え滾る刃となる。」

その剣はかなり名の知れたものだったので、ネイティはそれを、自動学習された自らの記憶から引き出す事が出来た。
そしてその名前の意味を理解して、ネイティは、メタルモンスターの伝えたい事を即座に理解していた。

「もう判ったよねネイティ。最終決戦に、ど偉いのを持ってきちゃった事に、ようやく気付いたようだね。皆を助けたいっていう気持ちも判るけど、時には諦めるのも手だよ。まぁそうしたら、ダーテングと一緒になっちゃうけどね。」

そう言い終えると、メタルモンスターの伝えたい事は終わったのか、その姿が段々と薄れていき、光に包まれて消えていった。

――伝説の鳥……火口に住むと言われる……焼き尽くす神。

いつしか、ロックは脇に転がっていた剣を握り締め、ふらふらと倒れそうになりながらも、なんとかその場に立っていた。
そしてその腕に握り締められている剣からは、赤黒い炎ではなく、生命溢れるような、力強い炎が迸っていた。

「……見せて貰ったぞ、予言の鳥。お前が考え、お前が出した、それが答えか。」

その熱で、床が燃え始めていた。
立ち登る炎は天井を焦がして、そこからフロア全体に、炎が広がりを見せている。
段々と炎が広がっていき、いつしかそこは根の海から、火の海へと変貌する。
しかしそれを遮るように、炎に包まれたフロアが、端々から伸びた根の群れによって、徐々に揉み消されていく。

「これは……草結び……。」

――返して貰うよ……何故なら……。

ネイティを絡めとっていた蔦の檻は次第に千切れていき、その中から這い出るように飛び出したネイティが、炎を纏うその者に向けて、力強く告げた。

「あの人の泣き顔は、もう見たくないからね。」

うねり、炎を掻き消していく根の群れの様子は、まるでその木々全体がネイティに味方しているかのように、辺り一面を、力強く蠢いていた。

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